ディレイ・ビューイング観戦記/BABYMETALのThe O2 Arena公演

BABYMETALが2025年5月30日,イギリス・ロンドンのThe O2 Arenaで欧州アリーナ・ツアーの最終公演を行った。The O2といえば最大収容人員20,000人を誇る欧州最大規模の会場で,過去には名だたる超大物アーティストがライブを行ってきた伝統あるアリーナである(たとえばIron Maiden,Metallica,Slipknot,U2,Bon Jovi,Green Dayなど)。同会場で単独公演をを行った日本人アーティストはBABYMETALが初。しかもチケットはソールド・アウトという快挙である。

2016年にRED HOT CHILI PEPPERSの前座としてThe O2のステージに立ってから足かけ9年,BABYMETALはついに自分たちの力で栄光の座をつかみ取り,名実ともに欧州でトップクラスの地位に登りつめたと言えるだろう。ちなみにBABYMETALは2016年4月2日に同じくロンドンにあるWembley Arena(現OVO Arena Wembley)でも日本人初となるの単独公演を行っている。BABYMETALは歴史と伝統のあるThe O2とWembleyという2つの会場で「日本人初」の偉業を成し遂げたことになる。

BABYMETALの歴史の転換点となりうるThe O2 Arena公演の模様は日本に生中継された。午前5時からのライブ・ビューイングに参戦するのは大変だったので,日本時間で2025年5月31日(土)の17時から始まるディレイ中継をユナイテッドシネマ幕張で鑑賞した。以下はその感想である(ちなみに,2016年のWembley公演はリアルタイムでライブ・ビューイングを楽しんだ。その時のレポートはこちら→「観戦レポ/BABYMETALウェンブリー公演ライブ・ビューイング!」)。

座席は残念ながら下手よりだった

◯最上級の空間

凄かった……ひと言でいうと,今までのBABYMETALとは別次元。完全にネクスト・レベルに突入した感あり。パフォーマンスの出来が云々という次元の話を超越していたと思う。ステージ上での存在感,会場を支配する力,観客を巻き込む力――それらすべてが世界レベルで見て凡庸のアーティストとはもはや別格のクオリティ。「The O2 Arena公演をソールド・アウト」という事実にも大いに頷ける,一流の大物アーティストの風格を身にまとっていた。

会場を埋め尽くす2万人の観客の盛り上がりと,彼ら/彼女らのBABYMETALへの愛の深さも凄かった。開演前から沸き起こる大合唱,1曲ごとに鳴り響く地鳴りのような大歓声――あの熱気は日本人には醸成できないだろう。そもそも日本人はあれほど歌うだろうか? 客層も日本でのライブとはまったく異なっており,とにかく若い。若い世代が多いのだが,子どもたちの親世代もちゃんといる(そして女性が多い)。つまり老若男女ということだ。そして会場全体に充満するあたたかな空気感。開演前に場内の様子が映し出されるのだが,子どもがカメラで抜かれるたびに大歓声が湧き起こるのが実に良い。殺伐とした雰囲気は皆無。日本の会場とはまったく違う。

演者も一級品なら観客も一級品。双方が一体となってThe O2 Arenaという極上の会場にふさわしい最上級の空間が作り出されていたと思う。その様子を遠い日本の地から12時間遅れで見ることしかできない現実がちょっぴり悔しかった。この歴史的瞬間を,「そこ」でリアルタイムに体験したかった。それが正直な気持ちである。

◯日本国内では実現不可能な演出

観客を含む会場の雰囲気も最高だったが,肝心の演出も凄かった。何より強烈だったのが,RAMMSTEINばりにこれでもかと高く吹き上がる火柱である。その数と高さはまさに世界基準のスケールで,とにかくど派手な仕様。残念ながらこのレベルの演出を日本国内のライブで見ることは絶対に叶わないだろう(消防法の関係で)。とりわけ圧巻だったのはオープニングの“BABYMETAL DEATH”,“Song 3”,“イジメ、ダメ、ゼッタイ”,そして“Road of Resistance”での火柱だ。なお,“ギミチョコ!!”ではステージのはるか上空から火の粉が滝のように降り注いでいた。これもまた見ごたえがあった。

今回の欧州アリーナ・ツアーでは日本のアリーナ公演と同等レベルのステージ・セットが持ち込まれていたが,火の演出のクオリティの差という点で総合的に見れば欧州ツアーのステージ・セットの方が充実していたと言える。これからのBABYMETALのフルスケール・ショウは日本では見ることができなくなるかもしれない。

BABYMETALのInstagramより

◯進化し続ける楽曲

BABYMETALの楽曲はライブで磨かれて進化・成長を遂げる。この日のライブでは“BxMxC”がかなりの進化を遂げていたことが強く印象に残った。特にSU-METALの歌い方が今までとはかなり違っていて,よりラップ・メタルっぽくなっていたと思う。サウンドの重さ&過激さとあわせて,初期の頃には想像もつかなかったかっこいい曲になっていた。この曲には「完成」はなく,いつまでも変わり続けるのではないだろうか。ふとそう思った。

◯新曲

8月にリリース予定の新アルバム「METAL FORTH」からは5曲披露された。“RATATATA”は昨年のツアーですでに披露されており,“Kon! Kon!”と“Song 3”,“from me to u”の3曲は今年のツアーからセット・リストに組み込まれている。この日のライブで初お目見えとなったのは,Polyphiaとの共作“Sunset Kiss”である。同じくPolyphiaとコラボした“Brand New Day”のテイストを強く感じさせるポップでおしゃれな曲だった。映像による演出もBNDの路線を強く意識したと思われる作りで,とても美しかった。

遊び心にあふれた“Kon! Kon!”,ど迫力の“Song 3”,もはや完全に定番化した“RATATATA”,Poppyが登場して「完全版」となった“from me to u”――バラエティに富んだ新曲の数々は,新アルバム「METAL FORTH」の多様性と充実度の高さをうかがわせる。新アルバムへの期待は否が応でも高まるばかりだ。

◯取り残される日本

何度も度肝を抜かれた一方で,(くり返しになるが)今後は日本でこのレベルのショウを体験することは不可能かもしれないと少し悲しい気持ちにもなった。様々な制約ゆえ海外アーティストの来日公演がフル・スケール/フル・セットのステージにならないという問題を,先にも述べたがBABYMETALも抱えることになるかもしれないのだから……。

そして何より日本では客層が偏りすぎている。その大半は中高年男性だ。最近は多少の変化が見られるとはいえ,基本的には中高年男性が多い。今回のThe O2公演での客層の多様さとは雲泥の差であると言わざるを得ない。それが現実だ。日本でも若い世代を取り込み,親子そろってライブを楽しむことが当たり前の「文化」にならないと,BABYMETALに限らず日本のロック/メタル・シーンは先細っていく一方だ。

◯新たなる伝説の誕生

「完全アウェイ」だった2014年の「Sonisphere Festival」での奮闘に始まり,2016年のWembley Arenaを経て2025年のThe O2 Arenaへ――。BABYMETALの「伝説」はすべてメタル発祥の地・イングランドで生まれた。足かけ11年でたどり着いた最高峰。思えば2014年のワールド・ツアーでは“ギミチョコ!!”で初のコール&レスポンスが披露されたが,その時のSU-METALのコールはシンプルにひと言「Say!」だった。「今は昔」である。

◯おまけ

映画館に到着したのは開演のおよそ30分前,16時30分頃。入口周辺にはBABYMETALのTシャツを身につけたファンの姿がチラホラと。それほど大きな映画館ではないので,グッズ売り場も小さめだ。今回販売されるのは映画館限定デザインのTシャツとタオルの2種類のみ。すでに在庫はかなり少なめだったが,お目当てのタオルを無事に購入することができた。歴史的公演の記念品を買わないわけにはいかない。

映画館限定デザインのタオル

「THE O2」の文字が誇らしい

BABYMETAL UK & EUROPE ARENA TOUR 2025 SPECIAL ARENA SHOW IN UK "THE O2" Live Viewing
2025年5月31日(土)17時
ユナイテッド・シネマ幕張

【セット・リスト】
01 BABYMETAL DEATH
02メギツネ
03 PA PA YA!!
04 BxMxC
05 メタり!!
06 Kon! Kon!
07 Sunset Kiss
08 Song 3
09 ヘドバンギャー!!
10 RATATATA
11 ギミチョコ!!
12 from me to u
13 KARATE
14 イジメ、ダメ、ゼッタイ
15 Road of Resistance

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