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リリック・ビデオが衝撃的なBABYMETALの新曲“Monochrome”は何を表現しているのか

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Monochrome / BABYMETAL 2022年11月配信開始 音源と同時にリリック・ビデオもYouTubeで公開されているが,この曲は音源を聴いただけではその本質を十分に理解できないのではないかと思う。音源だけを聴いた時と,映像と合わせて聴いた時とでは,この曲から受ける印象がまるで違うのだ。 曲調は爽やか。ギターが曲を引っ張っているあたりを含め,全体的な雰囲気は“ Brand New Day ”に近い印象だ。「雨」や「花火」といった言葉が散りばめられた歌詞が描く世界は少し物憂げで気怠い感じだが,そこから一歩先へと踏み出して明るい未来を見つめようとするポジティブ側面もある。サウンドのみならず歌詞も“ Bradn New Day ”に近くて,メタル的というよりはポップス的なテイストだ。 ところが,その歌詞世界にリリック・ビデオで描かれるビジュアルが重なると,状況が激変する。 そこに描かれているのは,最後の一瞬を覗いて映像が終始モノクロという世界。前半では普通に屹立していたビル群が,後半では木端微塵に破壊されて廃墟と化している。打ち上げ花火が上がる様子を上下反転させたシーンは,まるで空から原爆を投下したかのよう。モノクロなので花火が花開く瞬間は白い閃光がピカッと輝いて見えるし(ピカドン),何故か天から降り注ぐ大量の“黒い傘”はどうしても“黒い雨”に見えてしまう。ポップな歌詞とは裏腹な,ある種不気味なモノクロの世界が次から次へと眼前に広がっていく。 極めつけは荒廃した大地に1本だけ立つ巨木。原爆と黒い雨を強く想起させるシーンの連続の果に登場するその光景は,否が応でも“被爆アオギリ”を思い起こさせる。 はたして“ Monochrome ”は何を歌っている曲なのだろう。BABYMETALのことだから,解釈は一つではない可能性が高い。それを受け止める側の解釈の仕方に委ねられている部分も大きいと思う。それを承知でこの曲にテーマを見出すとすれば,それは「破壊と創造」だ。「創造」は「再生」と置き換えてもよい。 BABYMETALの世界観を表現するキー・ワードh多々あるが,数字の“2”は間違いなくその一つ。BABYMETALはSU-METALとMOAMETALの2人だし,ライブにしても2014年の日本武道館公演は「赤い夜」と「黒い夜」,2016年の東京ドーム公演は「R

祝☆再始動!新曲“Divine Attack - 神撃 -”は“KARATE” meets “Road of Resistance”か?

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Divine Attack - 神撃 - / BABYMETAL 2022年10月配信開始 2021年10月10日に「LEGEND(ライブ)封印」を宣言して以来,表立った活動を休止していたBABYMETALが新曲リリースと共についに再始動した。 誰もが首を長くして待ち望んだ新曲“ Divine Attack - 神撃 - ”は,ファンの期待を裏切らない最高にクールな楽曲だ。BABYMETALの代名詞と言える「なんじゃこりゃ?」感は皆無で,遊びゴゴロもゼロ。徹頭徹尾大真面目なメタルである。 復活の狼煙となる曲が何の混じり気もない正統派ど真ん中のメタルであることの意味は大きい。封印を解かれた新生BABYMETALは,この曲をもって力強く進撃を開始するのだ。進むのは,もちろんメタルの道。あらゆる雑音を消し去り,どんなアンチをもねじ伏せながら。 “ Divine Attack - 神撃 - ”は“ KARATE ”と“ Road of Resistance ”を掛け合わせたようなヘヴィネスとポジティブなメッセージを有するエピックなメタル曲だと思う。 サウンド的には“ KARATE ”をさらに重く硬質にした感じだ。特にギターのヘヴィネスは圧巻。” KARATE ”のようなうねり(グルーヴ感)こそないものの,ゴリゴリしたメタル感たっぷりのリフは実にかっこいい。何より重心がとことん低い。ブルータルなテイストは希薄ながら,凶悪とさえ言えるレベルの重さと硬さを誇るサウンドだ。 ポジティブな歌詞はRoRを彷彿とさせる。封印を解いて再び力強く立ち上がったBABYMETALの決意をよく表していると思う。クレジットによれば,この曲の作詞は何とSU-METAL。歌い手自らが詞を書くことにより,心なしか歌唱にも説得力が増したように感じられる。劇的なメロディは終始胸を打つが,サビのメロディを「Wo Wo Wo〜」と歌う最後の部分は特に熱い。ライブで大盛りあがりすること確実である。 リリースと同時にYouTubeで公開されたMVには,一瞬だがSU-METALとMOAMETALが騎乗している姿が出てくる。このあたりもRoRとの共通点だ。 超前向きで聴く者を勇気づける歌詞の類似性や騎馬のイーメジが共通していることなどから,“ Divine Attack - 神撃 - ”は" Road

考察:BABYMETALとは何か(3)

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問い: BABYMETALとは何か 答え: ①BABYMETALとは現象である。 ②BABYMETALとは絶対に無視できない存在である。 ③BABYMETALとは物語である。 最終回となる(3)では,「BABYMETALとは物語である」という答えについて考察する。 ○「封印」以前の物語性 BABYMETALには様々な物語が内包されている。そのパフォーマンスや活動にどのような物語性を見出すかは,見る側の体験や嗜好に大きく左右されるだろう。しかし誰もが共感する最大の物語は,こんな感じなのではないだろうか。 「ヘヴィ・メタルとは無縁だった10代の3人の少女たちが,半ば無理やり仕事としてメタルっぽいことをやらされた。しかしそれを続けていくうちに彼女たちはメタルを理解し,メタルを愛するようになり,メタルによって自分たちを表現することが大好きになった。そして今や唯一無二の個性を発揮するようなり,世界の共通言語としてのメタルによって世界中のメタル・ファンを虜にするまでになった――」 要するに「親がもともとメタル好きで,小さな頃から自然とメタルに接していた」という類のエピソードのエクストリーム版(あるいは特殊事例)である。もっとも,「仕事でメタルを演るようになって,メタルのフェスにたくさん出ていたらメタルを好きになっていた」というわけで,メタルを“聴く側”ではなくて“演る側”というのが極めて異例ではあるが……。 いずれにしても,アウェイな状況を真正面から受け止めてバッサバッサと切り返し,「やらされていたBABYMETAL」を己の血肉と化し,やがては「BABYMETALとしての自我・自覚・責任」を背負って立つまでに成長するという物語は,メタル視点から見てもアイドル視点から見ても非常にエモいことは間違いない。しかもこの物語にはシナリオがあらかじめ用意されていたわけではなく,自然の成り行きとしてそうなったのだから,なおいっそう人を魅了してやまない。このような誰もが予想だにしなかった成長過程=“SU-METALとMOAMETALの意識の変容”こそ,BABYMETALが有している最も魅力的な物語なのだと思う。 そのようにして今や自らの足でメタルのフィールドにしっかりと立つようになったSU-METALとMOAMETALだが,メタルに対する向き合い方には違いがある点が興味深い。 SU-METAL

考察:BABYMETALとは何か(2)

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問い: BABYMETALとは何か 答え: ①BABYMETALとは現象である。 ②BABYMETALとは絶対に無視できない存在である。 ③BABYMETALとは物語である。 今回の(2)では,「BABYMETALとは絶対に無視できない存在である」という答えについて考察する。 ○BABYMETALは絶対に無視できない 「聴いたら好きか嫌いしかない。でも絶対に無視できない」(マーティ・フリードマン/NHK-BS「アジア・ミュージック・ネットワーク」,2014年)。 ヘヴィ・メタルという音楽にダンス(振り付け)を導入するという突拍子もない試み(アイドルとメタルの融合)は,異文化の衝突以外の何ものでもなかった。しかもそのクオリティはメタル視点から見てもダンスという視点から見ても図抜けて高いという徹底ぶり。メタルという範疇にとどまらない,さまざまな音楽ジャンルの要素を躊躇なく取り込んで独自のスタイルへと昇華させるセンスは見事と言う他なく,ダンスはいわゆるアイドル的な可愛らしさを維持しつつも実態は極めてハードで,武道の演舞や格闘技にも通じるパワー,スピード,そして美しさを体現している。 BABYMETALの「異種格闘技戦」的なスタイルは,音楽(メタルに限らず)やアイドルファンの間で当然賛否両論を巻き起こした。音楽にしろダンスにしろ,どちらか一方が中途半端だったとしたら,BABYMETALはイロモノ扱いされて終わっていたに違いない。しかし実際には,BABYMETALが生み出す音楽は紛れもなく“本物”で,彼女たちのパフォーマンスは空前絶後にして唯一無二のものだった。だから「ケチを付けて,はい終わり」にはできないのだ。 あまりにも尖ったその個性ゆえ,BABYMETALを初めて体験した人の反応は好きか嫌いかの真っ二つに分かれることが多い。しかもその反応は両極端で,音楽の世界に突然変異のように出現した存在に対して拒絶反応を示すか,新たな地平を切り拓く存在として大絶賛するかのどちらかである。良くも悪くも,誰もがBABYMETALについてひと言云いたくなる。一度でもBABYMETALを体験したら,何も見ず,何も聞かなかったかのようにスルーすることはできないのだ。

考察:BABYMETALとは何か(1)

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 2014年3月に日本武道館でBABYMETALのライブを初めて体験して以来,「BABYMETALっていったい何なのだろう」という問題意識が常に頭の片隅にあった。普通に音楽を聴いて楽しみ,ライブに参戦して感動していればそれだけで済むはずなのに,なぜか「BABYMETALとは……」という意識が頭から離れなかった。これほどまでにユニークで,ある種異様ですらある存在を目の当たりにして,何も考えないわけにはいかなかったのだ。 幸いなことに(?)BABYMETALは2021年10月10日に「LEGEND」封印を発表して事実上の活動休止状態になったので,いろいろと考える時間がたっぷりできた。以下は私なりに理解し,たどり着いた「BABYMETALとは何か」という問いに対する答えのようなものである。ただし,これは私独自の考えではなく,今まで10年以上にわたって述べられてきた様々な意見・言説の中から「BABYMETALとは何か」という問いに対する答えとして私自身が納得できるものを拾い上げ,私なりの見解や感想を付け加えたものであることをあらかじめ指摘しておく。 問い: BABYMETALとは何か 答え: ①BABYMETALとは現象である。 ②BABYMETALとは絶対に無視できない存在である。 ③BABYMETALとは物語である。 今回の(1)では,「BABYMETALとは現象である」という答えについて考察する。 ○ BABYMETALは現象である 「単なるメタルではない。もはや現象だよ」(アレクサンダー・マイラス/NHK「BABYMETAL革命」,2014年)。 これは当時『METAL HAMMER』誌の編集長だったアレクサンダー・マイラス氏が同番組の中で発したコメントである。BABYMETALの本質をついた秀逸な発言で,古くからのファンにとってはおなじみのものなのだが,日本語で“現象”と表現すると具体的な意味が分かったような分からないような中途半端な感じになってしまうので,実は「ちょっと何言ってるか分かんない」という人も多かったのではないか。 そこで,日本語の“現象”にあたる英語の“phenomenon”の意味(定義)を調べてみたところ,この発言の意味することが実に具体的で分かりやすくなった。 “phenomemon”の意味はこうだ(ロングマン現代英英辞典)。 1. someth