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レビュー/BABYMETALのベスト盤「10 BABYMETAL YEARS」

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10 BABYMETAL YEARS / BABYMETAL 2020年12月23日発売(初回限定盤A/初回限定盤B) テッド・ジェンセンによるリマスタリングによって,特に昔の曲ほど音質が向上した。全体的に音像がクリアになり,各楽器の音の輪郭が明瞭になったと感じる。特にドラムにその影響は大きく出ている。アタック音がマイルドになってバスドラとスネアの音が聴きやすくなった。加えてシンバルの繊細な高音もクリアに。このような表現が合っているかは分からないが,上品なドラム・サウンドに仕上がっていると思う。どの曲も空間的な広がりがより感じられるようになった。過剰に音が詰め込まれた作品があふれ,音圧も音の密度もひたすら「強く,高く」を追い求めるケースが多い中,「押す所は押し,引く所は引く」というテッド・ジェンセンの「引き算の美学」とでも言うべき仕事っぷりは称賛に値する。 スタジオ・アルバムが3枚しかない中でのベスト盤なので,収録曲が全10曲というコンパクト仕様なのは当然だろう。問題は曲のセレクションだが,これはもう言い出したらきりがない。リストはファンの数だけ存在するだろうし,コアなファンにとっては「全部がベスト」であるはずだ。BABYMETALが提示してきたものを謹んで受け取るしかない。 とはいえ,収録されている10 曲はとりあえず誰もが納得するであろう珠玉の10 曲であることは間違いない。1stから5曲,2ndから3曲,3rdから2曲というバランスも妥当だ。いずれも公式MVになっており,BABYMETALを代表する曲ばかり。変化球的な曲やクセが強い曲(いわゆる「なんじゃこりゃ!?」路線)ではなく,BABYMETALなりの王道路線を行く,剛球一直線な曲が中心になっているという印象だ。だからといって同じような曲が並んで一本調子になっていない点が素晴らしい。アルバムをリリースするごとに曲のテイストの振り幅を大きく広げてきたBABYMETALの変化がよく分かる。いたずらに曲の順番に凝らずに,時間軸に沿って1stから順番に並べただけのシンプルな構成にしたのは正解だ。 以下,リマスター盤との差が特に顕著な1stアルバムの5曲について,オリジナル盤との比較を簡単に記してみた(あくまでも主観)。 01 ド・キ・ド・キ☆モーニング リマスターの恩恵を最も受けたのは,おそらくこの曲だろう。地を這

レビュー/まさかの曲も披露された充実の企画!BABYMETAL結成10周年企画「STAY METAL STAY ROCK-MAY-KAN」

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「STAY METAL STAY ROCK-MAY-KAN」は素晴らしい企画だった。選曲は発売間近のベスト・アルバムにほぼ沿っており,収録予定の10曲中8曲が披露された(披露されなかったのは“イジメ、ダメ、ゼッタイ”と“THE ONE”)。びっくりしたのがサウンドの素晴らしさ。特に1stアルバムや2ndアルバムの曲は音質が劇的に向上していたように思う。音像がクリアになってメリハリが効いており,ソリッドなサウンドになっていると感じた。たとえば冒頭の“ヘドバンギャー!!”はドラムの音がとてもタイトだし,続く“ド・キ・ド・キ☆モーニング”は音像がクリアになってこの曲が元来有していた地を這うようなグルーヴ感がいっそう強調されていると思う。ひょっとしたらテッド・ジェンセンがマスタリングを手掛けたベスト・アルバムの音源を流用したのではないかという気がする。このライブでは神バンドの姿がステージ上には見られなかったことも,そう考える一つの根拠。 曲によってはサンプリング音源が未使用だったり,合いの手が無音だったりするものもあった(“ヘドバンギャー!!”の「ヴォイ!」や“メギツネ”の「ソイヤソイヤ」など)。意図的にそうしたのかどうかは定かではないが,それは本来のライブであればオーディエンスが叫んだであろうパート。あえて無音にすることで視聴者に対して「自宅で叫べ!」というメッセージを送っていたのかもしれない。一体感を醸成するための苦肉の策か。 結成10周年企画ということもあり,ステージ後方に設置されたモニターには演奏中の曲の過去映像が流されるという心憎い演出も。視聴中の画面にも随所に過去映像が挟まれ,今までBABYMETALが歩んできた道のりを視覚的に振り返りながらパフォーマンスが楽しめる。特に初期の映像のインパクトは強烈で,3人の幼さが際立つ(特にYUIMETALとMOAMETAL)。成長期の10年という時の流れがいかに濃密で劇的であるかということがよく分かる。 わずか8曲のセット・リストではあるが,最もインパクトがあったのは2曲目の“ド・キ・ド・キ☆モーニング”だったのではないか。「KAWAII METAL」を象徴する初期曲は最近のライブでは封印されているため,まさか「大人カワイイ」路線にかじを切った今のベビーメタルがこの曲を披露するとは完全に予想外だった。しかもSU-METALが

BABYMETALがついに紅白歌合戦に出場決定!

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 BABYMETALが「第71回 NHK紅白歌合戦」に出場することが11月16日,発表された。 多くのファンにとっては諸手を挙げて大歓迎の紅白初出場決定だろう。テレビはオワコンだと言われて久しい中,それでも昨年の視聴率は第1部=34.7%で,第2部=37.3%。一昨年以前もコンスタントに35%~40%を叩き出すモンスター番組なのだ。マンネリが指摘されたり演出や選考基準が物議を醸したり,何かと話題になる番組だが,今なお日本人にとっては抜群の知名度を誇る国民的歌番組であることに変わりはない。そんな「出場することがステータス」になる番組に,ついに「世界のBABYMETAL」が出場するのだから,これはもう素晴らしい話以外の何ものでもないだろう。 もちろん,気がかりな点を挙げればきりがない。たとえば…… ・曲が短く編集されてしまうのではないか。 ・独特の茶番劇,司会者と出演者の珍妙な掛け合いに巻き込まれてしまうのではないか。 要するに紅白歌合戦に独特の演出や縛りの影響を受けてしまい,BABYMETALが本来の魅力を存分に発揮できないのではないかという懸念である。 これはまっとうな懸念であり指摘であると思う。 時間的制約から,披露される曲は短くアレンジされることが半ば標準化しているのは事実だ。それどころか,多くの人が知るように「紅白特別メドレー」的なものになってしまう場合もある。いずれにしても曲のオリジナリティが大きく損なわれてしまい,その曲やアーティストの魅力が最大限発揮されなくなってしまうことになる。個人的には曲とアーティストへの敬意を欠いた,きわめて失礼な演出だと思う。 また,NHKの番宣の色合いが強い珍妙な掛け合いにアーティストが加担させられることもある。これは「歌」本来とはまったく無関係の余計な演出であり,茶番以外の何ものでもないと思う。曲を短く編集してしまう一方で,そんな余計な演出に時間を費やすというのは本末転倒だ。 このように,紅白に出場したところでBABYMETALの本質的な魅力が十分伝わらない可能性があるわけだが,そのような負の要素を差し引いても多大なる恩恵に授かることができるのもまた事実である。老若男女を問わず多くの人が家族ぐるみで見る歌番組(視聴率40%弱!)に出演するということは,他の何ものにも代えがたい巨大なインパクトを有する広告宣伝活動にほかならない

またしても名言ザクザク!「別冊カドカワ 総力特集 BABYMETAL」

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BABYMETALの結成10周年を記念して発売された『別冊カドカワ 総力特集 BABYMETAL』は,例によって名言のオンパレードだった。彼女たち自身が発する言葉に接する機会はめったにないので,4万字を超えると歌われている超ロングなインタビューは,ファンにとってはまさにバイブル。今回は気になった発言をいくつかピックアップしてみた。 まずはSU-METALから。 すごく印象に残っているのは,初日の大阪のライヴかな。初めての全曲生バンドっていうライヴで,その時に記憶が飛んだことを覚えてます。ライヴをしている自分とは別に頭の上辺りからライヴを楽しんでいる自分がいて,誰かにあやつられているかのように思い通りに出したい声が出て,気持ち良かったです。絶対成功するってどこかのタイミングでわかって,ただライヴを楽しんでいました。 2012年5月の「BABYMETAL DEATH MATCH TOUR 2012-五月革命-」についてのコメント。このエピソードは今までにも何回か語られてきたものだが,「五月革命」初日の大阪公演でのこととピンポイントで語られたのは今回が初めてではないかと思う。すでに8年も昔のライブになるが,それが今でも強烈に印象に残っていることに驚きを禁じえない。当時のSU-METALは中学3年生。この時はいわゆる「ゾーンに入った」のではないかと推測するが,その後似たような経験はなかったのかが気になるところ。 「メギツネ」は自分にとって未だに課題曲です。この曲は全ての基礎が入っていて,自分の苦手な音域,速いリズムと流れるメロディー,歌とダンスの呼吸を合わせたり…なのでこの曲を基礎練習として歌って今の自分の課題を見つけています。 素人ながらに難しい曲なんだろうなとは思っていたが,調子のバロメーターを計る正真正銘の課題曲であり,ライブ前のウォーミングアップでも歌う曲でもあることを初めて知った。この曲がリリースされたのは2013年。当時と今とではSU-METALの歌唱法はまるで異なるだろうが,それでも7年もの間(そしておそらくこれからも)課題曲であり続けるという点が興味深い。それだけ多くの要素が詰め込まれているからこそ,“メギツネ”はライブで欠かせない名曲でもあるのだろう。 バックヤードのケータリングの場所とかでかなり目立つんですよ,私たちって。メタルフェスで,小っちゃい女の子

BABYMETALの異色曲“BxMxC”のMVが何の前触れもなく突如公開

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BABYMETALの結成10周年にちなんだ「10月10日」を目前に控えた10月8日,“BxMxC”のMVが突然公開された。 ライブ映像ではないMVは久しぶり。BABYMETALのYouTubeチャンネルを覗いてみたところ,ライブ映像ではないMVは2018年10月19日に公開された“Starlight”以来なので,およそ2年ぶりのこと。やはりずいぶん久しぶりのことなのだ。2人が躍動するオリジナルの映像はやっぱり良い。ブルータルなサウンドも最高だ。 アルバムで異彩を放つこの曲は2020年1月の幕張公演2日目にライブとして世界初披露され,その超個性的かつ圧巻のパフォーマンスがオーディエンスの度肝を抜いた。アルバムで聴くのとライブで目の当たりにするのとでは,受け手が抱く印象がまるで異なるのだ。それ以来,この曲の評価はうなぎのぼりと言っていいだろうが,そのようなファンの声がこの曲のMV化を後押しした側面もあるように思う。コロナ禍にあって活動が制限されてしまうアーティスト側の事情とファンの求めるものが一致したのが,“BxMxC”の映像化という選択肢だったのだろう。 それにしても, 観れば観るほどSU-METALのカッコよさにほれぼれする。ラップバトルを繰り広げながらもメタル然としたアクションがクールだし,何より彼女の最大の魅力である「目」「眼差し」「視線」が強烈なオーラを放っている。振り付けが決まっていて何かと制約が多いライブとは違って、ある程度の自由あるいは自然さを感じさせる振り付けがなされている点もこのMVの魅力だと思う。 BABYMETALのステージはミュージカルのようだけど,このMVを観ていると中元すず香のなり「切りっぷり」に感服させられる。BABYMETALのSU-METALというキャラクターに完全に没入して,SU-METALを完璧に演じている。その様子はもはや演技には見えず,完全なる別人格が生み出されているかのよう。 対戦型格闘ゲームを思わせる演出や,古参のファンには懐かしい「天下一メタル武道会」という設定を持ち出す遊び心が,いかにもBABYMETALらしくて良い。おそらく特に深い意味はないのだろうが,過去の諸々がきちんと今につながっている感じがする。そのような物語性のようなものは,やっぱりBABYMETALの魅力なのだと思う。

レビュー/BABYMETAL「LEGEND - METAL GALAXY -」(Blu-ray&CD)ネクスト・レベルに突入した最高のライブ

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LEGEND - METAL GALAXY - (Blu-ray) / BABYMETAL LEGEND - METAL GALAXY - DAY-1 (CD) / BABYMETAL LEGEND - METAL GALAXY - DAY-2 (CD) / BABYMETAL 2020年9月発売 2020年1月25日と26日に幕張で行われたBABYMETALのライブ「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN EXTRA SHOW」の模様を収録した映像作品とライブ・アルバムがリリースされた。Amazonで初回限定盤を購入したので,一気にレビューしたいと思う。 ■CD 「LEGEND - METAL GALAXY -」 THE ONE限定のライブ盤は多数リリースしてきたBABYMETALだが,本作は一般向けのものとしては「LIVE AT BUDOKAN ~RED NIGHT~」(2015年),「LIVE AT WEMBLEY」(2016年)に続く3作目である。 ライブのおよそ2ヶ月前、2019年10月に発売された3rdアルバム「METAL GALAXY」の通常盤に収録されている全14曲(実際には「Japan Complete Edition」収録曲も1曲あったので,全15曲)を2日に渡って披露した圧巻のライブは,ファンに絶大なインパクトを与えた。その様子を完全収録した音源なので,あの2日間を体験して奇跡を目の当たりにしたファンならば,このCDを聴けばあの時の興奮が脳裏に蘇ること間違いなし。チケットを入手できず涙をのんだファン,あるいはそれほどでもないライト層にとっても十分楽しめるボリューミーな作品だ。 1月のライブの素晴らしさを追体験するには映像作品の方を入手した方が手っ取り早いが,このライブ・アルバムはサウンドが素晴らしくて臨場感もあるので,これはこれで一聴の価値がある。かつてBABYMETALのライブ・アルバムといえば,そのサウンドは必ずしも良いとは言えず,ライブ盤1作目となる「LIVE AT BUDOKAN ~RED NIGHT~」以外はあまり褒められたものではなかった。しかしTHE ONE限定の「LIVE AT THE FORUM」あたりからそのような傾向はだいぶ改善され,本アルバムのサウンドはかなりバランスが良くなったと思う。だいぶ聴

BABYMETALの魅力を構成する10のワード

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 BABYMETALの結成10周年を記念して10月13日に発売される予定の『別冊カドカワ 総力特集 BABYMETAL』。本誌には「あなたが思う『BABYMETALの魅力を構成する10のワード』」という企画があり,Webで回答を募集していたので投稿した。サイトでは全体を総括する形で150文字以内の理由説明を求められたものの,とてもじゃないがそれだけでは説明し尽くせない。そこで,それぞれのワードについて簡単に解説してみた。ちなみに「ワード」が「単語」のことなのか「語句」のことなのか不明だったので,わかりやすさを考慮してある程度の文字数になる語句とした。 1.SU-METALの歌声 神バンドが奏でる轟音に埋没することなく,真っ直ぐに天高く突き抜ける圧倒的なSU-METALの歌声は,どこまでも伸びやか。彼女の歌声がなければBABYMETALが存在し得ないであろうことは,KOBAMETALがBABYMETALというプロジェクトを思いついたきっかけとして「中元すず香の歌声」を挙げていることからも明らかだ。 2.表現力に秀でたダンス 初期の頃は「メタルとダンスの融合」というコンセプトの斬新さが注目された。曲に合わせて踊ることが困難であることは誰の目にも(耳にも)明らかなヘヴィ・メタルという音楽に,見事なまでにマッチさせた振り付けを産み出したMIKIKO-METALの功績は甚大。3人の一糸乱れぬシンクロ感と,指先からつま先まで配慮が行き届いた洗練されたダンスは,BABYMETALの楽曲が持つ世界観を雄弁に表現していると思う。美しさ,力強さ,切れ味など,あらゆる点で隙がない。 3.神バンドのスキル BABYMETALが世界中のヘヴィ・メタル好きから支持され,筋金入りのミュージシャンからも評価されている理由の一つには,間違いなく神バンドの存在があると思う。人間が演奏することは不可能なのではないかとすら感じさせる難曲の数々を完璧に演奏することが神バンドの最低条件。そこまでのスキルを持つミュージシャンは多くはない。また,神バンドによって奏でられる音が,同じステージに立つBABYMETALの各人に及ぼす心理的効果も実は大きい。 4.メタルの過去と未来を融合した楽曲 ヘヴィ・メタルの古典へのオマージュをふんだんに盛り込みながら,ポップスやEDM,ラップから果ては民族音楽まであらゆるジャンルの

レビュー/BABYMETALのTHE ONE会員限定Blu-ray「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」

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「METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN」 / BABYMETAL 2020年7月16日発売(THE ONE限定Blu-ray) 2019年11月に埼玉(さいたまスーパーアリーナ)と大阪(大阪城ホール)で行われたライブを収録した作品。これは映像および一部音声からの推測だが,全14曲中,前半の7曲が埼玉,後半の7曲が大阪だと思う。 このレビューを書いている時点で最新のBABYMETAL公演は,今年の1月に幕張で行われた「LEGEND -METAL GALAXY」だ。よく言われるようにBABYMETALのライブは「最新が最高」なので,今のところ このライブがBABYMETAL最高のライブだということになる。この見解に異論のあるファンはほとんどいないだろう。2日間で最新アルバム「METAL GALAXY」全曲を披露したほか,SU-METALとMOAMETALを支えた「アベンジャーズ」の3人と,東西神バンド全員が同じステージに立って“Road of Resistance”と“イジメ、ダメ、ゼッタイ”を披露するという無双っぷり。特に2年近く封印されてきた名曲“イジメ、ダメ、ゼッタイ”を2日間の公演の最後に持ってくるという演出は相当にエモーショナルだった。「Extra Show」のコンセプトは,キツネ様以外は誰も想像できい超ド級のサプライズに満ちていた。 しかしそれから時間が経つこと約半年。コロナ禍でライブを含むエンタメが壊滅状態になる中,少し冷静に「あの時」を振り返ってみると,1月の幕張公演2デイズの演出がいかに特別であったかということが改めてよく分かる。いや,特別などという言葉では生ぬるいくらいで,もはや特異と言ってもいいかもしれない。あの2日間は,それくらい稀有で「あり得ないことが起きた2日間」だったのだ。今さらながらに,そう痛感する。 あえて言うなら,ファンの涙腺を大崩壊させたコテコテにエモいあの時の演出は,看板メニューがてんこ盛りの過剰サービスに他ならない。もうお腹がいっぱいで「これ以上は食べられません」と言っているのに,「そんなこと言わずに,さあどんどん食べて」と,ミシュラン三つ星級の美味しい料理が次から次へと提供されているような状態とでも言おうか。 たしかにとんでもなく素晴らしいライブだった

YUIMETALについて語ろう

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2020年6月21日 Text by TAROO-METAL 昨日6月20日はBABYMETALの元メンバーであるYUIMETALこと水野由結の誕生日だった。そこで,YUIMETALについてちょっとだけ語ろうと思う。 ①武道館のステージから転落 YUIMETALに関する一番の思い出といえば,2014年3月1日の日本武道館公演での転落事故だ。多くの人がご存知の通り“ヘドバンギャー!!”の煽り場面でステージから落下。当時の私の座席は比較的ステージに近いスタンド席だったのだが,位置は偶然にもYUIMETALが煽りに来た側。目の前で突然YUIMETALの姿が見えなくなる(消える)というアクシデントは予想だにしなかった一瞬の出来事で,最初はいったい何が起こっているのか理解不能だった。どうやら落下したようだと分かってからは「YUIMETALははたして大丈夫だろうか」「公演は続行されるのだろうか」と大いに不安になったことを鮮明に覚えている。 会場がざわつく中,若干長めのインターバルを経て次の曲“イジメ、ダメ、ゼッタイ”のイントロが当然のように流れ,程なくして何事もなかったかのようにクラウチング・スタートの姿勢をとるYUIMETALの姿を目にした瞬間の気持ちと言ったらもう……。この時のステージの高さは一般的な成人男性の身長よりも高いくらい。そこから落ちたにもかかわらず傍目には無傷だったことは奇跡以外の何ものでもない。 この日のライブは,私にとっての「初めてのBABYMETAL体験」だった。「ライブを初めて観に行ったら,メンバーがステージから落下」というのは,そう滅多にあることではない。大事故にならなかったからこそ,今でも「衝撃の体験」としてオープンに話せるわけだが……。 ②凛とした美しさ YUIMETALといえば切れ味鋭いダンスが魅力。体幹の強さを感じさせる姿勢の美しさと,しっかりとした「止め」の動作が強く印象に残る。 見た目は華奢なのに,YUIMETALの姿勢は激しく踊ってもグラつかないし崩れない。彼女のダンスがまるで武道家の演舞のような正確さと力強さを感じさせるのは、体幹がしっかりしているからこそだろう。スッと立っているだけでも美しく,そのたたずまいからは凛とした美しさがにじみ出る。YUIMETALのダンスが私に

レビュー/BABYMETALの「LIVE AT THE FORUM」アリーナ級会場での最高峰ライブ

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LIVE AT THE FORUM - THE ONE LIMITED EDITION - / BABYMETAL 2020年5月13日発売/THE ONE限定盤 BABYMETALが3rdアルバム「METAL GALAXY」のリリース当日(2019年10月11日)にアメリカ・ロサンゼルスのTHE FORUMで行った公演を収録した映像作品。BABYMETALがアメリカにおいてアリーナ級の会場でライブを行うのは,これが初めてである。「THE ONE LIMITED EDITION」にはライブ全15曲を収めたCD2枚と,「APOCARYPSE」と名付けられたフォトブックがバンドルされている。 この公演の約3ヶ月後に幕張で行われた「LEGEND - METAL GALAXY -」があまりにエモくてインパクトが強烈だったので,それに比べるとTHE FORUM公演の衝撃はやや劣るというのが正直な感想だ。しかし音響の良さを含めた会場の素晴らしさと,THE FORUMのステージに立つという意義を踏まえれば,このライブは2014年の日本武道館とネブワース,2016年のウェンブリーと東京ドームに比肩しうる,BABYMETALにとってのマイルストーンと言える伝説的公演であることは間違いないだろう。 ライブは豪華絢爛のひと言に尽きる。ゴージャスな照明,この時点でBABYMETAL史上最も大きなスクリーン,会場中央まで移動する円形ステージ――それら一つひとつはけっして特別な装置/演出ではないものの,それらを非常に洗練された形で最大限効果的に用いていることが,手にとるようにわかるライブだ。おそらく細部に至るまでお金をかけているのだろうが,単に巨額の資金を投入するだけではこのクオリティを実現することは無理。しっかりとしたコンセプトとセンスの良さは欠かせない。 最初から最後までひと通り観てまず感じたのは,サウンドの良さ。会場の音響が良かったことも大きく影響しているのだろうが,神バンドがいわゆる「西の神」であることもあって,全体的に迫力があってタイトなサウンドだと思う。 その「西の神」では,とりわけドラムのアンソニーのプレイが圧巻で強く印象に残る。“Kagerou”への導入として初めて披露された「西の神」によるソロ・タイムでのプレイを観れば,彼がいかに凄腕のドラマーであ

レビュー/アベンジャーズ・システムを導入した初のライブ「BABYMETAL AWAKENS - THE SUN ALSO RISES -」

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BABYMETAL AWAKENS - THE SUN ALSO RISES - / BABYMETAL 2020年4月発売(THE ONE会員限定) 2019年6月28日,29日に横浜アリーナで行われたライブを収録した映像作品(ライブCD付き)。ファンの間で物議を醸した2018年の〈ダークサイド〉を経て,誰もが固唾を飲んで見守るなか開催された本公演は,ご存知のようにサポート・ダンサーを3人の〈アベンジャーズ〉の中からローテーションで選出するというシステムで行われた最初の公演だ。本作に収録されてるのは2日目である。 〈アベンジャーズ〉システムを採用して2日目なので,SU-METALとMOAMETALの表情から緊張感はさほど感じられない。むしろ適度にリラックスしているようで,特にSU-METALの「破顔一笑」が印象に残る。1日目を無事に終えたことで,ある程度の手応えと自信を得たのだろう。ステージ上の2人がパフォーマンスを純粋に楽しんでいることが強くうかがえる。ただし2日目とはいえサポート・ダンサーは前日とは異なるので,いわば初日が2日続くようなもの。内心では適度な緊張感とプレッシャーがあったのではないかと推測する。 もちろん,今こうして振り返ってみると,この日のパフォーマンスは同年9月のThe Forum公演や11月及び翌年1月の日本公演と比べれば全体的にこじんまりとした印象を受けるし,SU-METALとMOAMETALの様子に若干の手探り感というか,慎重さが感じられるのは事実。だが,誰も予想だにしなかった驚愕の演出と圧倒的なパフォーマンスですべてのファンの度肝を抜いた2020年1月の幕張公演2デイズに通じるもの,あるいは〈ダークサイド〉によって突きつけられた「BABYMETALらしさとは何か」という問いに対する答えが,はっきりと示されたライブだったことは明らかだと思う。 BABYMETALのパフォーマンスは3人だからこそ映える。2人では単なるデュオ。1人が歌い,もう1人が踊るだけでは見ごたえがない。4人以上の大所帯だと,ダンスの迫力が散漫になってしまう。シンガー1名+ダンサー2名という最小限の構成だからこそ,シンクロする歌とダンスの魅力が増し,ステージ上で3人が織りなすフォーメーションの美しさがいっそう強調されるのだ。「やっぱりBABYMET

全文意訳/「ROCK SOUND」2019年11月号のBABYMETALインタビュー

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2020年2月12日 Text by たろ a.k.a. TAROO-METAL 昨年10月に発売された『ROCK SOUND - ISSUE 258』(2019年11月号)で特集されたBABYMETALのインタビューを,例によって意訳してみた。いつものように「だいたいこんな感じかな」とう程度の日本語訳なので,誤りに気づいても大目に見ていただければ幸いである。 モダン・ヘヴィ・ミュージックのアイコンとして確固たる地位を確立し,世界的なフォロワーはライバルにはなり得ない。この日本のグループはメタルの偉大さを勝ち取り,足を踏み入れれば紋切り型の知ったかぶりは何であれ切り裂く。巨大な会場を満員にすることからフェスの常連になることまで,それは本当に驚くべきことなのだ。旅の最後の一歩は「METAL GALAXY」。多様性と冒険心に満ちた3作目のアルバムは,2018年末のYUIMETAL脱退後,再編成されたBABYMETALとして初めてリリースされる作品だ。現在,中心メンバーであるSU-METALとMOAMETAL,そして神バンドは,ライブの時にはローテーション制のゲスト・ヴォーカリスト(アヴェンジャーズ)によってサポートされている。 過渡期に生まれたものではあるが,この新しいレコードは私たちの予想以上に細部に至るまで驚異的で色彩豊か。地球上のあらゆる土地から新しいサウンドとスタイルを取り入れている。Sabatonのヨアキム・ブローデン,タイのラッパーF・ヒーロー,Arch Enemyのアリッサ・ホワイト=グルツと幅広いゲストを招いている点も特徴だ。 「METAL GALAXY」は世界中で絶賛発売中で,これから大忙しの1年がやって来る。チャレンジしたことややりたいこと,そして将来について語ってもらうため,私たちはバンドに取材を試みた。 ――YUIMETALが脱退した時、BABYMETALの将来についてどのような不安がありましたか? SU-METAL: 簡単なことではなかったんですけど、私たちのパフォーマンスをサポートしてくれるアベンジャーズがいたのでとてもワクワクしていました。 ――新しいラインナップに慣れることは大変でしたか? ライブのたびに違うメンバーと演じましたよね? ある意味、新しいチャレンジをすることは楽しかったですか? MOA

『BURRN!』3月号に掲載されたBABYMETALに関する小さな論評

2020年2月9日 Text by たろ a.k.a. TAROO-METAL 『BURRN!』3月号の特集「2010年代の名盤」で,AKIHISA OZZAWA氏がBABYMETALについて冷静なコメントを記している。 BABYMETALは日本のみならず世界の音楽市場,とりわけヘヴィ・メタルあるいはヘヴィ・ロックのシーンにおいて,独特の輝きを放つ,極めて異質な存在だ。そのコンセプトと音楽性はユニークのひと言に尽きる。「BABYMETALは単なるメタルではない。もはや現象だよ」というアレックス・マイラス(『METAL HAMMER』誌の元編集長)の発言や,「聴いたら好きか嫌いかしかない。でも絶対に無視できない」というマーティ・フリードマン(ギタリスト)のコメントが,BABYMETALの異質性をよく表していると思う。 これだけユニークな存在でありながら,BABYMETALがシーンにもたらしている効果や存在意義を,まっとうな形で論評しているメディア(あるいは専門家)がほとんどいないのは,ちょっとおかしいと思う。特異であるがゆえに評価しづらいという事情はあるかもしれないが,「好きか嫌いか」「メタルか否か」というファンの感情論レベルでの評価しか下されないとすれば,それはあまりにももったいないというものだろう。 その点を踏まえれば,AKIHISA OZZAWA氏のコメントは,別企画のコメント中に挟まれた短文ではあるものの,感情的になることなく,中立的な立場から先入観にとらわれずに分析している点で好感が持てる。もちろん異論はあるだろうが,ここに記されているのは根拠ある一つの意見である。BABYMETALに関する多くの論評はともすれば「手放しで大絶賛」か「問答無用で却下」のどちらかになりがちだ。落ち着いた議論や評論が成立しづらい土壌がある中,どちらに肩入れするわけでもなく,冷静かつ客観的に論じている姿勢が評価できる。繰り返しになるが,BABYMETALの存在意義やシーンに与える影響を正しく評価するためには,このような姿勢が必要だと思う。 それでは,AKIHISA OZZAWA氏の見解を以下に引用する。なお,読みやすくするために文章を適宜改行した。 ————— 2010年代のヘヴィ・メタル・シーンを語るにあたって避けては通れない,2010年に結成されたガ

全文意訳/2019年10月発売の「METAL HAMMER 327」BABYMETALインタビュー

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2020年2月7日 Text by たろ a.k.a. TAROO-METAL 今さら感が半端ないが,以下は2019年10月発売の『METAL HAMMER 327』に掲載されたBABYMETALのインタビュー記事を全文意訳したものである。読んだついでに訳したわけだが,よく分からない部分はカットしたり雰囲気で訳したりした。素人ゆえ誤りも多々あるだろうが,そこは大目に見ていただければ幸いである。 METAL HAMMER 327 スタイリストの手によってケープを優雅に身にみにまとって,SU-METALとMOAMETALが並んで立っている。どこかの惑星の女王のように,彼女たちは威厳に満ちているように見える。暑い7月のある日の午後、私たちはBABYMETALのバック・ステージの様子を撮影した。場所はロンドンのBrixton Academy。このあと彼女たちがライブを行う会場である。 ソロ活動に専念するためBABYMETALを脱退するとYUIMETALが告げてから8カ月が経つが、BABYMETALをデュオとみなすことにはまだ違和感を感じる。マネージメントは2人が一緒に写真に収まっているかどうか、彼女たちがスーパーヒーローやおもちゃのような存在ではなく、エレガントな存在に見えるかどうかを確認することに骨を折っている。カワイイ・メタルの開拓者である二人にとって、これが新たな夜明けであることは明らかだ。 超多忙なスケジュールであるにもかかわらず、彼女たちが落ち着き払っているのは驚きだ。3日前、彼女たちは2019年最初のライブを終えた。「BABYMETAL Awakens - The Sun Also Rises -」と名付けられた、キャパ17,000人の横浜アリーナ2デイズ。両日ともサポート・ダンサーを起用していた。それから彼女たちは、好奇心旺盛なグラストンベリーの聴衆を楽しませるためにイングランド直行の飛行機に飛び乗り、Bring Me The Horizonの前でプレイし、アメリカのポップ・アイドル、ビリー・アイリッシュと一緒にセルフィーに収まった。 「日本でのライブ当日の夜に飛行機に乗らなければならなかったんです。グラストンベリーにはフェスの当日に着いたので,すべてがぼんやりした感じでした」とMOAMETALは告白する。「まだ夢みたいな感じです

ライブ参戦レポ/驚天動地のフィナーレが待っていた幕張公演2日目|BABYMETAL「LEGEND - METAL GALAXY」2日目

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2020年1月29日 Text by たろ a.k.a. TAROO-METAL 1日目の公演も驚天動地の演出だったが,2日目はその遥か斜め上をいく演出だった。「BABYMETALは最新が最高」というのは定説だが,まさか2デイズのライブでそれを目の当たりにするとは思わなかった。ファンの思い込みや期待を良い意味で裏切り続けるBABYMETALの真骨頂,ライブ1本ごとに進化・成長を遂げるBABYMETALの底知れぬ可能性をこれでもかというほど思い知らされた日だった。 予想通り2日目は3rdアルバムのDisc-2完全再現。神バンドは黒装束に身を包んだ「西の神々」で,心なしか昨日よりも音がソリッドかつタイトに聴こえた。 意外だったのは日本限定盤収録の“BxMC”が披露されたこと。1日目にDisc-1から唯一“↑↓←→BBAB”だけが披露されなかったことから,日本限定盤収録の曲はセット・リストに組み込まれないと思っていた。ところが蓋を開けてみればまさかの“BxMxC”解禁。BABYMETAL史上最も凶悪なデスメタル・サウンドはメタル耳に心地よく,初めてラップに挑戦したSU-METALのパフォーマンスも堂に入っていて超クール。巨大スクリーンにはBABYMETALのライブとしては初めてリリックMVが映し出され,演出のカッコよさに拍車がかかる。 “BxMxC”は振付けもカッコよくて見応えあり。ラップ・メタルだけど嫌味な感じは全然なくて,素直にカッコよく見えた。SU-METALはサビになると「BMC」のハンドサインを繰り出しつつ全身を使って観客を煽る。このSU-METALのなりきりっぷりには心底惚れ惚れした。SU-METALの新しい一面を見た気がする。 “BxMxC”のSU-METALがカッコよすぎたのはダンスだけではない。初挑戦したラップも同様だ。特に「かまし⤴︎」「さけび⤴︎」と語尾を上げて歌うところが素晴らしかった。アルバムではエフェクト処理されていることもあってボカロのように正確に語尾が「⤴︎」と修正されていたわけだが,ライブは生歌でそれを見事にやり切った。さすがにアルバムのように正確無比ではなかったが,生身の人間の力だけで再現し得る最高レベルの出来栄えだったと思う。大健闘だ。 “BxMxC”の初お披露目はもちろん衝撃だったが,この日最大の(正確にはこ

ライブ参戦レポ/BABYMETAL「LEGEND - METAL GALAXY」1日目

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2020年1月28日 Text by たろ a.k.a. TAROO-METAL 結論から言うと,BABYMETALは「予想のはるか斜め上を行く」グループであることを改めて思い知らされた1日だった。“Road of Resistance”での「全員出撃」がその象徴だ。もともと神バンドとして君臨してきた日本のプレーヤー4人に加えて,去年のUSツアーを支えてきた外国のプレーヤー4人,そしてサポート・ダンサーの3人,そしてもちろんSU-METALとMOAMETALの2人,総勢13人がたった1曲のためにステージに並び立って共演するとは。おそらく誰も予想だにしなかった奇跡の瞬間だったに違いない。 今回の「Extra Show」が2日間あり,事前に「東と西が云々」と知らされていたため,1日目と2日目をそれぞれ東洋の神バンドと西洋の神バンドで分担し,さらにアベンジャーズの3人も昨年10月のThe Forum公演の時のように交代で登場するのではないかと予想した人は多かったはず。そのうえで「光と闇」というキー・ワードから「METAL GALAXY」のDisc-1とDisc-2を完全再現するのでは,という憶測も流れていた。結果として1日目に関しては後者の予想はほぼ正解となったわけだが,まさかRoRをギター4人,ベース2人,ドラム2人というダブル・バンド状態でプレイし,ステージ上にはSU-METAL,MOAMETAL,鞘師里保,藤平華乃,岡崎百々子の5人が勢ぞろいするという事態になるとは,もしかしたらキツネ様にだって知らなかったかもしれない(Even The Fox God doesn't know.)。 時間を少し巻き戻そう。RoRの前には久しぶりに紙芝居が流された。基本的な内容はかつての「戦国WOD」だが,それをもとに「光の軍勢vs闇の軍勢」という風に書き換えられており,何やら思わせぶりだなと思っていたら,ステージ上では実際にまさかの光景が。 視界が遮られていたためステージ上を直接見ることができず,スクリーンとモニターの映像でやや遅れて確認したのだが,ステージ上では白装束に身を包んだ東の神々と黒装束を身にまとった西の神々が共演し,しかも鞘師里保,藤平華乃,岡崎百々子の3人も同時にステージに立つという驚愕の事態になっていたのだった。つまり全員出撃。これぞまさしく