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レビュー/BRING ME THE HORIZON “Kingslayer” ft. BABYMETAL (LIVE IN TOKYO)ーあの「完全版」がついに映像化!

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 相思相愛のBRING ME THE HORIZONとBABYMETALが初コラボした“Kingslayer”。ファン待望の“リアル・コラボレーション”が2023年3月の「NEX_FEST」で実現したわけだが,その模様をふんだんにフィーチャーしたMVがBMTHのYouTubeチャンネルでついに公開された(2023年12月13日)。 ライブで「完全版」を目の当たりにした際には音源とは異なりエフェクトがかかっていないSU-METALの歌声に感嘆したが,あいにくステージまでの距離が遠かったのでBABYMETALの3人がどのようなダンス・パフォーマンスを披露しているのかは判然としなかった。このたびのMVにより,ようやくその全貌が明らかになったわけだが……。 こごまで自由に荒ぶるBABYMETALを見たのは初めてだ。自分たちの曲ではなく,あくまでもBMTHの曲だからだろうか。今まで見たことがないような笑顔にあふれ,かなりリラックスした様子がうかがえた。基本的には振り付けがあるものの,その所作には自身の曲を演じる時のようなシンクロ感は感じられず,良い意味でルーズなようにも見えた。観客の煽り方にしてもごくごく自然で,しかも心の底から楽しそう。 ダンスそのものも普段のBABYMETALのライブではお目にかかれないような力強さに満ちており,繊細さや洗練さとは対極にあるように感じた。そもそもBMTHの曲なのだからダンスのテイストがBABYMETALの楽曲のそれとは異なるのは当然なのだろうが,それにしても比較的シンプルで力強い路線に寄せたこの振り付けを、いったい誰が考えたのかが気になるところ。ベースになるアイデアはSU-METAL,MOAMETAL,MOMOMETALの3人が出したのではないかという気がしないでもない。 何から何まで初めてづくしのこの日の“奇跡”。個人的なハイライトはオリヴァーとSU-METAL,MOAMETAL,MOMOMETALの4人がステージ中央で豪快にヘドバンをかますシーンである。今までは兄が妹を導くようにBMTHがBABYMETALを引っ張ってきたイメージがあるが,このシーンを見て,兄の背を追い続けてきた妹たちがようやく兄に追いつき,文字通り同じステージに立ったのだという感じがした。アーティストとしての格はもちろんBMTHの方が数段上だ。しかしその

ライブ参戦レポ/「NEX_FEST」で“Kingslayer”完全版をついに目撃

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 2023年11月3日に幕張で開催されたフェス「NEX_FEST」で,BRING ME THE HORIZONとBABYMETALの夢のコラボレーションがついに実現した。BABYMETALをフィーチャーしたBMTHの楽曲“ Kingslayer feat. BABYMETAL ”で,満を持してBABYMETALがBMTHのステージに登場したのである。 BMTHがこの曲をライブで披露する時,BABYMETALパートは基本的に音源使用だった。いわば「音源のBABYMETAL」との共演をせざるを得なかったわけである。それは当然と言えば当然のことなのだが,ファンの心理としては「早く両者の共演が見たい!」というひと言に尽きる。その「ファン待望の瞬間」が,ついにと言うべきかようやくと言うべきか,幕張の地で現実のものとなったわけである。 以下は,そのパフォーマンスをステージのはるか遠くから体験した際の感想である。 ◆“ Kingslayer feat. BABYMETAL ” Bring Me The HorizonがBABYMETALをフィーチャーした“Kingslayer”の「完全版」をついに目撃することができた。相思相愛の両者がついにステージで夢の共演を実現。ファンにとってこれほど嬉しいことはない。 ステージは遠かったものの,サウンド的には申し分なし(フェスのトリを務めるBMTHのステージなのだから当然だ)。何より普段よりも自由な感じでパフォーマンスするBABYMETALの3人が魅力的だった。綺麗な長髪をなびかせて華麗かつクールにヘドバンをかます場面ではBMTHのオリヴァーも同じステージに上がり,4人でヘドバンするという何ともエモい光景が繰り広げられた。 ちょっと驚いたのはSU-METALのヴォーカルだ。音源では声にエフェクトがかけられており,そのせいか機械的な歌声のピッチはかなり高かった。一方,この日のライブではもちろん完全に生歌。それにもかかわらず,SU-METALは何ら不自然さを感じさせることなく超高音パートも見事に歌い切っていた。お見事としか言いようがない。 さらに3人のダンスにしても,自分たちの曲ではないにもかかわらず「BABYMETALクオリティ」をきちんと維持していたのはさすが。全編で歌うわけではないので,SU-METALのダンスをいつもよりたっぷりと

ライブ参戦レポ/「NEX_FEST」に降臨!フェス仕様のBABYMETALは超攻撃的だった

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 BRING ME THE HORIZONがキュレートするフェス「NEX_FEST」が2023年11月3日,幕張で開催された。BABYMETALは国内外で様々なフェスに出場しているが,私がフェスでのBABYMETALを目撃したのは今回が初めて。本来ならば2020年3月の「KNOTFEST JAPAN」でフェスでのBABYMETALを初体験できるはずだったのだが,ご存知のように新型コロナのせいでフェスが延期されてしまったので,「フェスでのBABYMETALを見てみたい」という私の願いは叶えられなかった。このたび3年越しでその夢がようやく現実になったわけである。しかもBMTHとのコラボという最高のおまけが付いた状態で。 初めて見た「フェス仕様のBABYMETAL」は,ただただ凄かった。いや正しくは「フェス仕様のSU-METALは」と言うべきか。ここまでアグレッシブに観客を煽りまくるBABYMETAL/SU-METALは見たことがない。これはもう完全に予想外だった。ついでに言えば,ここまで日本語で煽りまくるSU-METALを見たのはメイト歴9年にして初めてかもしれない。良い意味で「行儀の悪いBABYMETAL」という感じで,単独ライブでのBABYMETALは「猫をかぶった状態」あるいは「よそ行きの姿」なのではないかとすら思えた。もちろん,どちらも正しくBABYMETALそのものてはあるのだが。 以下はフェスで披露された楽曲についての感想である。 01.BABYMETAL DEATH ライブのオープニングでこの曲を見るのは何年ぶりだろう。“In The Name Of…”も“FUTURE METAL”もオープニングを飾るに申し分ない曲だが,やはりBMDが一番しっくりくる。なによりのっけからオーディエンスを興奮のるつぼに叩き落とすことができる点が素晴らしい。 02.ギミチョコ!! この曲が始まるや否や周囲の人たちから大きな歓声が沸き起こった。フェスだからこの日がBABYMETAL初体験という人も多かったはずだが,曲のさわりをどこかしらで耳にしたことがある人は多かったのだろう。この曲がBABYMETALの代名詞であることを再確認した次第。 03. PA PA YA!! SU-METALがやや歌舞伎気味だったことが印象の残っている。「祭りだ!祭りだ!」の巻き舌がいつになく

レビュー/「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE - BLACK NIGHT & CLEAR NIGHT」 新生BABYMETALが生まれた記念すべき夜

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BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE - BLACK NIGHT & CLEAR NIGHT / BABYMETAL 2023年10月11日発売(THE ONE 限定盤) THE ONE 限定盤のパッケージ 2023年4月1日と2日に横浜の「ぴあアリーナMM」で行われたBABYMETALのライブを余すところなく収録した映像作品である。私が購入したのは「THE ONE 限定盤」で,両公演のBlu-ray2枚に加えて音源を収録したライブCD4枚,112ページのライブ写真集がバンドルされたスペシャルBOX仕様だ。 YUIMETALの脱退とその後の「ダークサイド」や「アベンジャーズ」時代(SU-METALとMOAMETALの2人でBABYMETALの歩みを何とかして維持していた時期)をリアルタイムで目の当たりにし,BABYMETALのこれまでの物語を知る古くからのファンには,それら全ての「今までの苦労」が一掃される壮大なカタルシスをもたらす感動的なライブだったはずだ。そのハイライトが,MOMOMETALが正式にBABYMETALの3人目のメンバーになったことの発表であり,セット・リストから長らく外されてきた“BABYMETAL DEATH”の復活である。 BABYMETALのことをそこまでは知らないライトなファンや新規層にとっては,そのようなBABYMETALの物語性を抜きにしても,ひとつのライブとしての完成度の高さがよく分かる最上級のエンターテインメントだったに違いない。 上品で豪華,それでいて嫌味がない。これはもう,メタル・エンターテインメントとして極上の魅力を備えたひとつの芸術である。 両面ジャケット仕様 こちらはBLACK NIGHT CLEAR NIGHTのジャケット 112ページのライブ写真集 ○映像とライティングが素晴らしい ステージ後方の背後に大きく映し出されるスタイリッシュな映像と,豪華だが派手すぎず上品なライティングが強く印象に残る。ライブ会場でも感じたことではあるが,こうして映像を見るとその素晴らしさに改めて気づかされる。 いわゆる「西の神」によるパワフルで迫力満点の演奏,SU-METALの孤高の歌声,MOAMETALとMOMOMETALの表現力豊かで切れ味鋭い美しいダンスーーパフォーマンス自体のクオリティ

レビュー/BABYMETALの新曲“メタり!!”は究極の鋼鉄お祭りソング

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  メタり!! / BABYMETAL 2023年8月配信開始&MV公開 最新アルバム「 THE OTHER ONE 」がダークでシリアスな作風だったので,“ メタり!! ”を聴いた多くの人は久しぶりの「なんじゃこりゃ!」系ソングにびっくりしたかもしれない。しかしちょっと冷静になってBABYMETALの歴史を紐解けば,この曲が特に異質というわけではなく,いかにもBABYMETALらしい曲であることは容易にわかるはずだ。 サウンドは「 THE OTHER ONE 」の系統に属するゴリゴリ重低音。そこに日本人の琴線に触れる三味線の音色と超ダンサンブルな盆踊りのノリが加わり,唯一無二の超個性的な楽曲に仕上がった。強いて言えば“ メギツネ ”と“ PA PA YA!! ”をかけあわせたような感じだろうか。BABYMETALにしては分厚めのコーラス(かけ声)が楽曲の迫力をプッシュしており,お祭り感が高まっているのも良い。 SU-METALの歌唱にも注目だ。最近はしっかりと歌いこむ曲が多かったSU-METALだが,この曲は歌うというよりはテンポよく言葉数を詰め込んで語る感じなので,新鮮な印象を受ける。全体的に中音域主体でパワルフなのもポイントだと思う(とくに“わっしょい!わっしょい!”の部分)。途中でちょっぴりファルセットを使ったり,最後で少しだけビブラートを掛けたりしているのも珍しい。歌い手としてのSU-METALの引き出しの多さを痛感させられる。 音源リリースと同時に公開されたMVでは新メンバーのMOMOMETALがフィーチャーされている。曲の半ばでMOMOMETALが歌舞伎のように見得を切るシーンがあるのだが,これはBABYMETALの一員としての彼女がまだ何色にも染まっていないからこそ可能な演出だと思う。すでに確たるイメージが固まっているSU-METALやMOAMETALには似つかわしくないし,もし2人のどちらかが見栄を切ったとしたら,それはそれでかなり違和感があったのではないか。 それにしてもサウンドが分厚くて重量感があり,実にかっこいい曲である。RAGE AGAINST THE MACHINEのトム・モレロがフィーチャーされているが,そのインパクト以上に曲そのものが素晴らしい。BABYMETALの数ある楽曲の中でも,ライブでの盛り上がりという点では群を抜いているの

レビュー/「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」度肝を抜く凝りに凝った演出にBABYMETALの本気を見た

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BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE - / BABYMETAL 2023年6月発売(完全生産限定盤) 2021年10月の「LEGEND封印」からおよそ1年と3ヶ月。ついに再始動して復活を遂げたBABYMETALが2023年1月28日と29日に幕張で行った記念すべきライブを収録した映像作品である。 わずか5ヶ月前のライブなのに,ずいぶん昔のことのように感じる。BABYMETALのライブは「最新が最高」だからこそ,そう感じるのかもしれない。今年4月の横浜公演2デイズやその後のワールド・ツアーでそのパフォーマンスはアップデートされ続けているので,5ヶ月前のライブは(当たり前だが)もはや最新ではないし,(あえてこう言うが)最高でもないと感じてしまうのだろう。 BABYMETAL史上もっとも演出が凝っていたライブは2017年12月に広島で行われた「 LEGEND - S - BAPTISM XX - 」であることはファンの誰もが認めるところであろう。YUIMETALが当日になって病欠するというアクシデントに見舞われた「不完全なライブ」だったにもかかわらず,ギミック満載でダークかつ禍々しい密教めいた演出の数々に彩られた「LEGEND - S -」は,BABYMETALの魅力の一つである「メタル・ミュージカル」という側面が強烈な輝きを放った文字通り伝説的なライブであった。 「 BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE - 」は,そのスケールの大きさといい,見ごたえあるステージ・セットといい,凝った演出といい,伝説的な「LEGEND - S -」と双璧をなすと言っても過言ではない圧巻のライブだ。最初から最後まで全編が見どころで,何度観ても感激する。 個人的には以下の3つがこのライブの見どころだと思う。 ①オープニングから“METAL KINGDOM”へと続く流れ ここが最大の見所だと思う(“Divine Attack - 神撃 -”まで含めてもいいかもしれない)。巨大な岩戸が重々しく開き,これまた巨大な玉座に腰を掛けたSU-METALとMOAMETALがまばゆい光の中で姿を表すシーンなどは,BABYMETALの「封印解除」あるいは「復活」を雄弁に物語るシーンで非常に力強い説得力に満ちている。BABYMETAL史上最

ライブ参戦レポ/「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE - CLEAR NIGHT」呪縛から解き放たれた夜

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■総論 2日目のCLEAR NIGHTのBABYMETALは,前日とはまるで異なる感じだった。憑き物が取れたというか,呪縛から解き放たれたかのように伸び伸びとした雰囲気に満ちていて,ステージの上で歌い踊る3人は心の底から自由を謳歌しているようだった。 新曲を5曲も披露するというチャレンジングな夜だった1日目のBLACK NIGHTは,やはりどこか固さがあったのかもしれないと今では思う。演者側もそうだし,とりわけ観客側がそうだった。双方がにらみ合っているような,妙な緊張感が会場内には充満していた。それは足枷あるいはしがらみのようなものと言ってよかったかもしれないが,そのような重たい空気から完全に解放されたのが,2日目のCLEAR NIGHTだったのではないか。 ■完全なるキングダム オープニングは“ METAL KINGDOM ”。1月の幕張公演の時のように1つの玉座が空いてしまっていることはなく,SU-METAL,MOAMETAL,MOMOMETALの3人がそろって玉座に座している光景は実に壮観だった。幕張でこの曲を披露した際にSU-METALは着座しながら「これがキングダムか」と思ったそうだが,3人がそろい踏みしたこの日の“ METAL KINGDOM ”を目撃した私は「これが“ METAL KINGDOM ”の完全版か」と感激していた。 ■新コスチューム “ METAL KINGDOM ”で3人が動き始めると,前夜とはコスチュームが変わっていることにすぐに気づいた。黒を基調としたデザインは変わらず,しかし光沢のある部分の輝きがゴールド成分多めになっていて,光の加減でキラキラと七色に変化するというゴージャスさ。遠目にも見栄えは抜群だった(まるで玉虫のよう)。 ■“いいね!”にびっくり 長らく封印されていた“ いいね! ”が披露されたのは,間違いなくこの日のハイライトの1つだったはず。この曲が日本国内のライブで日の目を見たのは,いったいいつ以来だろう。あまりに久しぶりすぎて,曲が始まってから数秒間,いま今目の前でプレイされている曲が何なのか,にわかには分からなかったくらいである。それが“ いいね! ”であると分かった瞬間,腰を抜かしそうになってしまった。 我に返ってさらに驚いたのは,この曲を今年26歳になる女性が歌っても違和感がほとんどないという事実である。

ライブ参戦レポ/「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE - BLACK NIGHT」異様な雰囲気に包まれた1日目

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 ■総論 いま振り返ると,会場内にどこか異質な感じが終始漂う独特なライブだった。期待と不安,そして緊張。この日に何かが起こることはあまりにも明らかだったし,それがBABYMETALの「喉に刺さった魚の骨」,つまりYUIMETALの後任をどうするのかという「3人目問題」の解決に関わるものであることは確定的だったので,妙な緊張感がぴあアリーナを支配していたのは当然と言えば当然であった。 会場内の誰もが「いつ,どのようにして」問題に決着がつくのかを気にしていたに違いない。それでいてBABYMETALはといえば,オーディエンスのそんな心理は軽く無視して普段通りにパフォーマンスを続行(当たり前だ)。しかも初披露となる新曲を5曲も投下するものだから,リアクションに困って戸惑う観客のソワソワ感は増すばかり。それが異様な雰囲気,妙なテンションを醸し出す要因だったのだと思う。 結局は最後になってようやくMOMOMETALの降臨が正式に告げられて,BABYMETALの「喉に刺さった魚の骨」は取り除かれたのであった。 ■物販 今回のライブではオンラインで整理券が配布され,時間指定制での購入という方式が採用された。これは大正解だったと思う。私は一般チケット枠としては最も早い14:00〜14:30の整理券を入手できたのだが,なんと14:10頃にはお目当てのグッズを購入することができたのだ。気持ち早めの13:30に会場に行ってみたところ,幸運にも14:00〜14:30組の待機列がすでに出来上がっており,そこにちゃっかり並ぶことができたおかげでもあるのだが……。 いずれにしても,並んでから40分程度でミッション・コンプリートというのはBABYMETALの物販史上最速となる快挙である。無駄に早くからならんで体力を消耗し,数時間後にようやく自分の番になったのにお目当ての商品はすでに売り切れ……という悲劇を回避できるこのシステム,ぜひ今後も継続採用していただきたい。 ■入場 1月の幕張とは演出もセット・リストもガラリと変わった1日目「BLACK NIGHT」はpitでの参戦だった。位置は後方中央のC3ブロック。後方とはいえステージ正面なので全体がよく見渡せた。入場の誘導ははっきり言ってグダグダでストレスフルだったが,いつまでも文句を言ったところで気分が良くなるわけではないので,ここでは語らない

レビュー/BABYMETAL「THE OTHER ONE」-メタルの未来を先取りした“超未来的”ヘヴィ・メタル・アルバム

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THE OTHER ONE / BABYMETAL 2023年3月発売(THE OTHER ONE限定盤「CLEAR BOX」) ■総論 BABYMETAL初となるコンセプト・アルバムはパラレル・ワールドでの10の物語(10の神話)をモチーフにした10曲から成る。そのどれもが非常にダークで重たい曲調で,今までのBABYMETALの楽曲とはテイストや雰囲気がまるで異なることがよく分かる。誰も見たことがない“もう一つのBABYMETALの物語”が,たしかにここにある。 全体として,いわゆるジェント的なヘヴィで重厚なギターを前面に押し出したパートと,ポップでメロディアスなサビを交互に配置した楽曲が多いという印象を受けた。そこにキーボードによるエレクトロニカルな味付けや中近東的な音階の導入による変化が施されている感じ。さらに軸になるメタルが80年代〜00年代の古典的なものから,2010年代以降のモダンなものへと移行していると思う。BABYMETALがこのアルバムで表現しているのはヘヴィ・メタルの未来を先取りした“超未来的”ヘヴィ・メタル,あるいはモダンなメタルのその先にある”ポスト・モダン”なメタルなのではないか。 そのような方向性のアルバムなので,従来のKAWAII路線やお遊び要素はほぼ皆無と言ってよい。よってそこに魅力を感じていた旧来のファンにとっては,本作は退屈な作品かもしれない。平たく言えば大人になった印象で,よりアーティスト然とした作風だ。 KOBAMETALは本作を「4thアルバムではない」と言っているが,音楽性は明らかに前作「METAL GALAXY」の延長線上にあると思う。ただしメタルを軸にしながらも,上述のようにその軸そのものがよりモダンなメタルへと移りつつあり,その上で楽曲の多様性はますます広がっている。古典的なメタルという幅の狭い判断基準しか持たない私にとっては,その魅力と意義を100%理解できない領域に入りつつあるアルバムなのかもしれない。少なくともPolyphiaとかPeripheryといったジェント/メタルコアやプログレッシブ・メタルを通過していないと,このアルバムを正しく解釈することは厳しいのではないか。 ■サウンド 特にギターのゴリゴリ感が尋常ではない。どこまでも重く,ひたすらソリッドで,とことん轟音。シリアスでタークなアルバムの

BABYMETALというジャンルを体現した新曲“Light and Darkness”

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Light and Darkness / BABYMETAL 2023年2月24日配信 新アルバム「 THE OTHER ONE 」から“ Light and Darkness ”が先行シングル第4弾として配信開始された。 メタラーとしての個人的な感想を述べると,この曲は少なくとも私の感覚ではヘヴィ・メタルではない。音作りのベースはたしかにメタルっぽいが,全体的にダンサンブルでエレクトロニカルなイメージが強く,EDMっぽい要素も垣間見られるからだ(メタル成分を極限まで削ぎ落としたAMARANTHEとでも言おうか)。しかも明るく開放的なヴォーカル・メロディは90年代のJ-POPのようなテイストを感じさせるので,メタルとの距離は広がる一方だ。 それでは,この曲はいったい何なのか。 “ Light and Darkness ”の最大の特徴は,SU-METALの歌声を大々的にフィーチャーしている点にあると思う。 かつてここまでSU-METALのヴォーカルを全面的に押し出した曲があっただろうか,というのが率直な感想だ。今までの数々の楽曲においても,もちろんSU-METALの歌声は圧倒的な存在感を放っていた。メタルの轟音に埋もれることなく,天まで突き抜けるようなその伸びやかな歌声は,さながら深い闇を切り裂く一条の光。そのようなBABYMETALの顔であるSU-METALの歌声とヴォーカル・パフォーマンスの魅力を最大限に活かそうと意図して作られた曲。それが“ Light and Darkness ”なのだと思う。 楽曲のためのヴォーカルではなく,ヴォーカルのための楽曲――そう感じさせる“ Light and Darkness ”は,J-POP的なメロディを美しくパワフルに歌い上げるSU-METALの歌唱をとことん堪能すべきヘヴィ・ポップスあるいはメタル・ポップスなのだ。 かつてSU-METALは「BABYMETALというジャンルを作りたい」と言っていたが,もしかしたら“ Light and Darkness ”はその足がかりになる曲なのではないだろうか。もともとBABYMETALはメタルを軸に様々なジャンルの音楽の要素を巧みに取り込んで個性的な音楽世界を構築してきたが,“メタルでありながら,メタルではない”と感じさせる“ Light and Darkness ”は,そ

ライブ参戦レポ/「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」過去最高レベルにシアトリカルで「なんじゃこりゃ」な2日間

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 2021年3月〜4月に行われた日本武道館での10公演を最後にライブ活動を休止していたBABYMETAL。それから約2年。ついにBABYMETALが"封印”を解き,音楽シーンに戻ってきた。2023年1月28日・29日に幕張メッセで行われたBABYMETALの復活ライブは,奇しくもその前日に「収容人員の規模によらず大声OK」と政府が発表したことにより,マスクの着用が義務付けられた点を除けば,ほぼコロナ前と同等のレギュレーションで開催されるライブとなった。みんなで大合唱,随所で発生するモッシュにサークル,"イジメ、ダメ、ゼッタイ”でのWall Of Death……ああ,BABYMETALのライブが帰ってきたんだなあ――心の底からそう感じるライブだった。 幸運なことに,私はこの記念すべきライブに2日とも参戦することができた。1日目は「南・Hブロック」の360番台,2日目は「北・Dブロック」の170番台だった。詳しくは以下のレポートで述べるが,会場を縦断する移動式ステージを両サイドから眺めることができたので,これもまたラッキーだったと言える。 以下は1日目の参戦記をベースに,2日目の所感を適宜加味したレポートである。 ■総論 オープニングの度肝を抜く荘厳な演出と時空を超えた「なんじゃこりゃ」のミクスチャー。右に左に振れ幅がとんでもなく広い,いかにもBABYMETALらしいライブだった。新曲を5曲も組み込んだ大胆なセット・リストはBABYMETALなりの未来への決意表明にほかならない。一方で同じく5曲が1stアルバムからチョイスされており,2ndアルバムからは1曲,3rdアルバムからは2曲というセレクトだ。最も古いアルバムとライブ開催時には未発売の最新アルバムから最多かつ同数の選曲というのは,今回のライブの性格を象徴しているとも言える。自身のルーツを振り返りつつ,これからの未来へとしっかりと目を向ける――今までのBABYMETALとこれからのBABYMETALの狭間にあるのが,この日のBABYMETALだったのだと思う。 未来志向という点では,革新的なステージ・セットが強いインパクトを放っていた。“封印前”最後のライブとなった日本武道館10公演を踏襲した全方位正面システムが採用されたほか,ステージは可動式で常に会場中央を端から端まで行ったり来たり。

BABYMETALのエピックな新曲“METAL KINGDOM”はFDTDの進化系?

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METAL KINGDOM / BABYMETAL 2023年1月20日配信開始 壮大なスケール感,鋼のような意志の強さを感じさせるポジティブな歌詞,ライブで大合唱が発生すること間違いなしのシンガロング・パート――BABYMETALによる新たなメタル・アンセムの誕生だ。 どこか神秘的で空間的な広がりを感じさせる音作りは“ From Dusk Till Dawn ”に近い。そこに“ KARATE ”の力強さと重さを加えたような,実にエピックでヒロイックなメタル曲である。 詩を読むかのごとく朗々と歌い上げるSU-METALの歌声は,まるで荘厳な儀式におけるシャーマン(あるいは巫女)の祈りのよう。非常にエモーショナルな歌詞でありながら,感情をほとばしらせることなく,はるか宇宙の彼方に向けて語りかけているような,そんなパフォーマンスである。力強いミッド・テンポの曲調と相まって,優しさと気高さを伴うSU-METALの歌声の魅力がいっそう際立っていると思う。 2023年3月に発売予定の新アルバム「 THE OTHER ONE 」の冒頭を飾るのが,この“ METAL KINGDOM ”である。そこから“ Divine Attack - 神撃 - ”へと続く流れの破壊力は抜群だ。聴けば背筋がゾクゾクすること必至。とことんシリアスでメッセージ性あふれる,実に強力無比な2曲である。 「 THE OTHER ONE 」はコンセプト・アルバムだという触れ込みなので,この2曲をそのような視点から読み解くと,自由を求めてメタル王国の復権を願う戦士がついに自ら立ち上がり,同志とともに戦いに挑む――という感じだろうか。 いずれにしても,新アルバムへの期待は高まるばかりだ。