ライブ参戦レポ/「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE - BLACK NIGHT」異様な雰囲気に包まれた1日目

 ■総論

いま振り返ると,会場内にどこか異質な感じが終始漂う独特なライブだった。期待と不安,そして緊張。この日に何かが起こることはあまりにも明らかだったし,それがBABYMETALの「喉に刺さった魚の骨」,つまりYUIMETALの後任をどうするのかという「3人目問題」の解決に関わるものであることは確定的だったので,妙な緊張感がぴあアリーナを支配していたのは当然と言えば当然であった。

会場内の誰もが「いつ,どのようにして」問題に決着がつくのかを気にしていたに違いない。それでいてBABYMETALはといえば,オーディエンスのそんな心理は軽く無視して普段通りにパフォーマンスを続行(当たり前だ)。しかも初披露となる新曲を5曲も投下するものだから,リアクションに困って戸惑う観客のソワソワ感は増すばかり。それが異様な雰囲気,妙なテンションを醸し出す要因だったのだと思う。

結局は最後になってようやくMOMOMETALの降臨が正式に告げられて,BABYMETALの「喉に刺さった魚の骨」は取り除かれたのであった。

■物販

今回のライブではオンラインで整理券が配布され,時間指定制での購入という方式が採用された。これは大正解だったと思う。私は一般チケット枠としては最も早い14:00〜14:30の整理券を入手できたのだが,なんと14:10頃にはお目当てのグッズを購入することができたのだ。気持ち早めの13:30に会場に行ってみたところ,幸運にも14:00〜14:30組の待機列がすでに出来上がっており,そこにちゃっかり並ぶことができたおかげでもあるのだが……。

いずれにしても,並んでから40分程度でミッション・コンプリートというのはBABYMETALの物販史上最速となる快挙である。無駄に早くからならんで体力を消耗し,数時間後にようやく自分の番になったのにお目当ての商品はすでに売り切れ……という悲劇を回避できるこのシステム,ぜひ今後も継続採用していただきたい。



■入場

1月の幕張とは演出もセット・リストもガラリと変わった1日目「BLACK NIGHT」はpitでの参戦だった。位置は後方中央のC3ブロック。後方とはいえステージ正面なので全体がよく見渡せた。入場の誘導ははっきり言ってグダグダでストレスフルだったが,いつまでも文句を言ったところで気分が良くなるわけではないので,ここでは語らないことにする。


■ステージ・セット

THE OTHER ONE」の象徴であるO(オー)を形どった螺旋階段のようなセットがステージの中央に鎮座しており,その内側にあるステージはせり上がる仕組みになっていた。ステージ背後には左右に大きなスクリーンがあったが,開演後しばらくすると実はそれらがステージの左右いっぱいに広がる巨大スクリーンの一部であることが判明した。最初はシンプルに2画面構成なのかと思ったが,まさかの展開である。2020年の「LEGEND - METAL GALAXY」の時ほどではないが,オーソドックスながらインパクトがあったと思う。

■新曲

最新アルバム「THE OTHER ONE」からは,幕張では披露されなかった残りの5曲が新たにセット・リストに組み込まれた(オープニングの“THE LEGEND”を含めれば6曲が新アルバムからの選曲である)。ジェントに寄せた新アルバムの楽曲は,西の神によって演奏されたことによりライブでの迫力が数段増したと思う。特に“MAYA”と”Mirror Mirror”の図太いギターの轟音っぷりは凄まじく,迫力が尋常ではなかった。

Time Wave”はクールで洒落たテイストがライブでも遺憾なく発揮されていた。SU-METALの滑らかな英語がライブだと少し揺らぐのも良い。

Believing”は演出が秀逸だった。幾何学模様が目まぐるしく映し出される巨大スクリーンをバックに,上昇したステージ上の3人は影絵のようにシルエットのみ。照明が当たらないので,3人の表情はまったく見えなかった。演者の表情がうかがえず,シルエットしか見えないというのは普通に考えれば論外だが,この演出はとてもクールだった。影絵のようなこの演出は,かつて“Catch me if you can”や“Brand New Day”でも採用されたものだ。そのようなことを,ふと思い出してしまった。

場内が大きくどよめいたのが“METALIZM”である。シリアス路線に寄せた楽曲が大半を占める「THE OTHER ONE」において唯一“なんじゃこりゃ”を感じさせるこの曲は,中近東と東洋を混ぜたようなイーメジのダンスが実に複雑で見応えあり。摩訶不思議な雰囲気を強烈に醸し出す映像も美しかった。ダンサンブルなのでオーディエンスが慣れてきたらもっと盛り上がりそうだと感じた。“Shanti Shanti Shanti”も似たような系統の曲だが,“METALIZM”の方がより過激に振り切っている印象をけた。ちなみに「メタリズームズムズム」の部分は我々オーディエンスが大合唱するべきパートなのではないかと思った次第である。

新アルバム「THE OTHER ONE」の楽曲はどれも極めてライブ映えするなと改めて実感した。CDを聴いた時に感じる以上にライブだとメタル度が高まる印象だ。それでいてスクリーンの映像や照明などの効果もあって,ライブだととても上品でアーティスティックな仕上がりになる。思わず見とれてしまうパフォーマンスである。

1月の幕張と今回の横浜で「THE OTHER ONE」に収録されている10曲すべてを披露したというのは何気に凄い。ここまで大胆に新アルバムで攻めてくるとは思わなかった。BABYMETALが次のステージに突入したことが誰の目にも明らかになる,納得のセット・リストである。

ちなみにこの日の1曲目が“THE LEGEND”だったのは完全に予想外だった。「終わりが始まり」という「THE OTHER ONE」のキー・コンセプトを踏まえれば,1月の幕張公演の最後を飾ったこの曲が今回の1曲目というのもうなづける。しかし曲の感じとしてはライブの最初よりも最後を飾るにふさわしい曲だ。その意味でもなかなかチャレンジングな配置でだったと言えるのではないか。

■マルチバース

1月の幕張公演では「もう一つのBABYMETAL」が“ド・キ・ド・キ☆モーニング”で登場して聴衆を大混乱に陥れたが,FOX GATEを経由してマルチバースの何処からか召喚された「もう一つのBABYMETAL」がこの日に披露したのは“Karate”だった。今回は「もう一つのBABYMETAL」の3人の顔がスクリーンに大写しになったばかりか,ちゃんと1フレーズ歌っていたので驚いた。この演出,まだまだ他の曲でもありそうな予感がする。新たな“なんじゃこりゃ”はこの路線になるのだろうか。ちなみに西の神による“Karate”なので,サウンドはゴリゴリの重低音だった。

■3種の神器

ライブがいよいよクライマックスを迎える段になり,ちょっとしたサプライズに近い形で“BABYMETAL DEATH - Shin Ver. -”も披露されたが,これも実にクールで良かった。BABYMETALの10年前と今との融合を象徴した“Shin Ver.”は,新生BABYMETALにふさわしい。冒頭で3人が十字架に磔にされてせり上がる演出も,わかっちゃいるけど欠かせない。

「わかっちゃいるけど欠かせない」と言えば,最後の銅鑼も同じくである(SU-METALが最後に鳴らした)。棺桶,十字架への磔,銅鑼――BABYMETALの転換期には,これら「三種の神器」が必ず登場するのだ。その効果もあって,ライブは邪悪な空をはらんだ密教の宗教儀式のような色合いを濃くしてゆく。

■MOMOMETAL降臨

「Vocal & Dance ...... SU-METAL」「Scream & Dance ...... MOAMETAL」に続いて告げられたのは,多くのファンが待ち望んだ「Scream & Dance ......  MOMOMETAL」というアナウンスであった。

およそ5年にわたりサポート・ダンサーとしてBABYMETALを支え続けてきたという輝かしい実績がありながら,あくまでもサポート・ダンサーであるためその名前が公式に大きく報じられることはほぼ皆無。ステージ上でスポット・ライトを浴びていながら,演じるのは影武者的な役回り。思いっきり自己表現をしたかったはずなのに,自己主張やエゴを徹底的に封じ込めて個性を消し続けた5年間。その5年を,おそらく岡崎百々子さん本人はけっしてネガティブには捉えていないだろう。しかし傍から見れば,随分と損な役回りを……と言われても仕方ないくらい,実に大変な役割を演じ続けてきたと思う。

そんな“苦労人”岡崎百々子さんが,晴れてMOMOMETALとしてBABYMETALに正式に加入したのだから,BABYMETALファンとしては心の底から「ありがとう,そしておめでとう」と言うよりほかない。

YUIMETALがBABYMETALからの脱退を正式に発表してから約5年。ようやくBABYMETALは本来の姿を取り戻したわけだが,MOMOMETAL降臨という事実を,MOMOMETAL自身は(あるいは岡崎百々子さんは)どう思っているのだろう。私としては,MOMOMETALの覚悟の程を知りたい。BABYMETALへの思い,そして何よりメタルという音楽への想いを知りたい。BABYMETALの一員であるからには,そこが超重要だと思うから。

【セット・リスト】
BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE- BLACK NIGHT
2023年4月1日 at ぴあアリーナMM
01 THE LEGEND
02 メギツネ
03 ギミチョコ!!
04 MAYA
05 Mirror Mirror
06 Time Wave
07 KARATE
08 Believing
09 METALIZM
10 Distortion
11 PA PA YA!!
12 Road of Resistance
13 BABYMETAL DEATH - Shin ver. -
14 イジメ、ダメ、ゼッタイ





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