レビュー/BABYMETAL「THE OTHER ONE」-メタルの未来を先取りした“超未来的”ヘヴィ・メタル・アルバム

THE OTHER ONE / BABYMETAL
2023年3月発売(THE OTHER ONE限定盤「CLEAR BOX」)


■総論

BABYMETAL初となるコンセプト・アルバムはパラレル・ワールドでの10の物語(10の神話)をモチーフにした10曲から成る。そのどれもが非常にダークで重たい曲調で,今までのBABYMETALの楽曲とはテイストや雰囲気がまるで異なることがよく分かる。誰も見たことがない“もう一つのBABYMETALの物語”が,たしかにここにある。

全体として,いわゆるジェント的なヘヴィで重厚なギターを前面に押し出したパートと,ポップでメロディアスなサビを交互に配置した楽曲が多いという印象を受けた。そこにキーボードによるエレクトロニカルな味付けや中近東的な音階の導入による変化が施されている感じ。さらに軸になるメタルが80年代〜00年代の古典的なものから,2010年代以降のモダンなものへと移行していると思う。BABYMETALがこのアルバムで表現しているのはヘヴィ・メタルの未来を先取りした“超未来的”ヘヴィ・メタル,あるいはモダンなメタルのその先にある”ポスト・モダン”なメタルなのではないか。

そのような方向性のアルバムなので,従来のKAWAII路線やお遊び要素はほぼ皆無と言ってよい。よってそこに魅力を感じていた旧来のファンにとっては,本作は退屈な作品かもしれない。平たく言えば大人になった印象で,よりアーティスト然とした作風だ。

KOBAMETALは本作を「4thアルバムではない」と言っているが,音楽性は明らかに前作「METAL GALAXY」の延長線上にあると思う。ただしメタルを軸にしながらも,上述のようにその軸そのものがよりモダンなメタルへと移りつつあり,その上で楽曲の多様性はますます広がっている。古典的なメタルという幅の狭い判断基準しか持たない私にとっては,その魅力と意義を100%理解できない領域に入りつつあるアルバムなのかもしれない。少なくともPolyphiaとかPeripheryといったジェント/メタルコアやプログレッシブ・メタルを通過していないと,このアルバムを正しく解釈することは厳しいのではないか。

■サウンド

特にギターのゴリゴリ感が尋常ではない。どこまでも重く,ひたすらソリッドで,とことん轟音。シリアスでタークなアルバムの色合いは,このギター・サウンドによってもたらされていると感じる。ある意味でこのアルバムは,とてもギター・オリエンテッドなアルバムだ。

アルバム全体のサウンドも素晴らしい。各楽器の音の分離もよく,空間的な広がりも十分感じられる。今までで最もサウンド・プロダクションが良いアルバムだと思う。マスタリング担当がテッド・ジェンセンのようなので,当然と言えば当然か。

ただ,個人的な好みからすると,ドラムの音が相変わらず打ち込みっぽいのが難点だ(実際に打ち込みなのかは定かではない)。音像ももっとシャープかつクリアにしてほしいし,有機的な生々しさが足りないのでもっとバンド・サウンドっぽく仕上げてほしいとも思う。あくまでも個人的な好みではあるのだが。

■SU-METALのヴォーカル

SU-METALのヴォーカル・パフォーマンスは相変わらず非の打ち所がない。感情のゆらぎが歌声や歌い方にも明確に表れていて,表現の幅が今までよりもグッと広がったと思う。本来の持ち味である伸びやかで力強いクリーンな歌声はサビの部分でとりわけ威力を発揮するが,それ以外のパートでは優しさ・健気さ・儚さといった繊細な感情が,抑えられたトーンで巧みに表現されていると感じる。これは今までのSU-METALがあまり見せたことのない表情だ。

■英語の比重が格段に高まった歌詞

歌詞に占める英語の割合が今までの作品と比べて飛躍的に高まったことも「THE OTHER ONE」の特徴の一つだと思う。3rdアルバム「METAL GALAXY」までは歌詞はほぼ日本語と言ってよく,英語が用いられるのはワンフレーズ程度であった。BABYMETALはRammsteinのように母国語で歌うことにこだわりを持つアーティストという印象だったので,曲によっては英語と日本語が50:50に近いものもあるというのはちょっとした驚きだ。これもまた“誰も見たことがない”BABYMETALということなのだろう。

■各曲ひと言感想

01 METAL KINGDOM

新時代の幕開けを高らかに告げるメタル・アンセム。低音域を強調したSU-METALの力強い歌声が聴く者の魂を激しく揺さぶる。詳しくは先行配信された際のレビュー参照(BABYMETALのエピックな新曲“METAL KINGDOM”はFDTDの進化系?)。

02 Divine Attack - 神撃 -

多様性に満ちた本アルバムにおいて唯一といっていい典型的なヘヴィ・メタル曲。詳しくは先行配信された際のレビュー参照(祝☆再始動!新曲“Divine Attack - 神撃 -”は“KARATE” meets “Road of Resistance”か?)。

03 Mirror Mirror

冒頭のテクニカルなギター・フレーズが”Tales of The Destinies”を彷彿とさせる。英語詞のパートは派手で重厚なメタル,日本語詞のパートはゆったりとして開放感あるJ-POPという感じ。それぞれのパートの曲調はまるで異なっていて,その展開の飛躍ぶりはあまりに大胆。まるで別の曲が交互に現れるよう。

04 MAYA

冒頭の重厚で凶悪なまでに重たいギター・リフが強烈な印象を与える。そこからRammsteinのようなエレクトロニカルなパートを経てポップなサビへと曲調は目まぐるしく変化する。インスト・パートの轟音メタルとサビのメロウでポップなパートのコントラストが見事。

05 Time Wave

キーボードによるキラキラした味付けが良いアクセントになっている。エレクトロニカルでダンサンブルな曲調はAmarantheのよう。ノリがいいので,ライブで大化けしそうな予感。この曲の英語詞パートを歌うSU-METALの発音も注目ポイントだ。とても綺麗かつ滑らかで,実に美しい。

06 Believing

この曲もギターの轟音がクール。またしても“Tales of the Destinies”に似たフレーズも飛び出す。歌メロに「あれ!?どこかで聴いたような……」という瞬間があるが,t.A.T.u.の”All The Things She Said”だった(私は似ていると感じた)。

07 METALIZM

このアルバムで唯一,BABYMETALの“なんじゃこりゃ”を体現している曲。中近東っぽい音階や「メタリズムズムズム」という歌詞に耳を奪われがちだが,ギター・ソロの超絶テクにも要注目。賛否が分かれそうな気もするが,RammsteinとAmarantheを足して3で割ったようなテイストは個人的には“あり”だと思う。

08 Monochrome

物語性を感じさせる意味深なMVが印象的。先行配信された際のレビュー参照(リリック・ビデオが衝撃的なBABYMETALの新曲“Monochrome”は何を表現しているのか)。

09 Light and Darkness

ダンサンブルでEDMっぽいパートと,サビのメタルっぽいリズム&J-POPな歌メロのコントラストが強烈。1曲の中で曲調を大きく変えてくるという大胆さにおいて,この曲と“Mirror Mirror”は群を抜いている。聴けば聴くほどSU-METALの歌声の素晴らしさに惚れ惚れしてしまう。(参照:BABYMETALというジャンルを体現した新曲“Light and Darkness”

10 THE LEGEND

名曲“THE ONE”を引き継ぐドラマティックな曲。先の幕張公演「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -」の最後で披露されたが,振り付けがあった方がドラマ性が断然高まる。SU-METALが最後のワン・フレーズ「We are the legend」をファルセットに近い歌い方をしているのが珍しい。

珍しいといえば途中でサックスが出てくるのにはビックリした。なぜギターではなくサックスなのか。その音色は曲の雰囲気にマッチしているので特に騒ぎ立てることではないが,あまりにも意外なのでその理由を知りたい。

ちなみにサビのメロディは過去のライブの演出で使われていたような気がするのだが,私の勘違いだろうか。

■「CLEAR BOX」について

THE OTHER ONE限定盤の「CLEAR BOX」にはBlu-rayとフォトカードがバンドルされている。Blu-rayには本アルバムに収録されている5曲(“METAL KINGDOM”,“Divine Attack - 神撃 -”,“Mirror Mirror”,“Monochrome”,“Light and Darkness”)のMVが収められている。いずれもYouTubeで公開済みなので,真新しさはない。

フォトカードはB5サイズで,被写体はもちろんSU-METALとMOAMETALだ。全部で10枚あり,それぞれが本アルバム収録曲のビジュアル・イメージになっている。その他に同サイズの歌詞カードも10枚付いている。1枚1曲という仕様なので,かなり大きい。かつてこれほど大きな歌詞カードがあっただろうか。




 


 

 

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