ライブ参戦レポ/「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」過去最高レベルにシアトリカルで「なんじゃこりゃ」な2日間

 2021年3月〜4月に行われた日本武道館での10公演を最後にライブ活動を休止していたBABYMETAL。それから約2年。ついにBABYMETALが"封印”を解き,音楽シーンに戻ってきた。2023年1月28日・29日に幕張メッセで行われたBABYMETALの復活ライブは,奇しくもその前日に「収容人員の規模によらず大声OK」と政府が発表したことにより,マスクの着用が義務付けられた点を除けば,ほぼコロナ前と同等のレギュレーションで開催されるライブとなった。みんなで大合唱,随所で発生するモッシュにサークル,"イジメ、ダメ、ゼッタイ”でのWall Of Death……ああ,BABYMETALのライブが帰ってきたんだなあ――心の底からそう感じるライブだった。

幸運なことに,私はこの記念すべきライブに2日とも参戦することができた。1日目は「南・Hブロック」の360番台,2日目は「北・Dブロック」の170番台だった。詳しくは以下のレポートで述べるが,会場を縦断する移動式ステージを両サイドから眺めることができたので,これもまたラッキーだったと言える。

以下は1日目の参戦記をベースに,2日目の所感を適宜加味したレポートである。


■総論

オープニングの度肝を抜く荘厳な演出と時空を超えた「なんじゃこりゃ」のミクスチャー。右に左に振れ幅がとんでもなく広い,いかにもBABYMETALらしいライブだった。新曲を5曲も組み込んだ大胆なセット・リストはBABYMETALなりの未来への決意表明にほかならない。一方で同じく5曲が1stアルバムからチョイスされており,2ndアルバムからは1曲,3rdアルバムからは2曲というセレクトだ。最も古いアルバムとライブ開催時には未発売の最新アルバムから最多かつ同数の選曲というのは,今回のライブの性格を象徴しているとも言える。自身のルーツを振り返りつつ,これからの未来へとしっかりと目を向ける――今までのBABYMETALとこれからのBABYMETALの狭間にあるのが,この日のBABYMETALだったのだと思う。

未来志向という点では,革新的なステージ・セットが強いインパクトを放っていた。“封印前”最後のライブとなった日本武道館10公演を踏襲した全方位正面システムが採用されたほか,ステージは可動式で常に会場中央を端から端まで行ったり来たり。結果として死角がほとんどなくなり,会場内のどの位置からでも3人の姿がよく見えることとなった。しかも会場の四隅には大きなスクリーンが設置されており,どの方向を向いていても視界の片隅にはモニターがある状態。「観る」ことに関してはストレスが少なく,多くの人にとって大満足の見せ方だったのではないか。チケット代は確かに高いが,それも納得のクオリティである。

サポート・ダンサーは2日とも岡崎百々子だった。もはやBABYMETALのメンバーと言ってもいいくらいフィットしていて,彼女をこのまま正式メンバーにというファンの意見が多いのもうなずける。BABYMETALの一員として申し分のないパフォーマンスを見せてくれたと思う。後でも触れるが,どうやら今年の4月にはいわゆる「3人目問題」が決着を見そうな気配が濃厚だ。岡崎百々子(とかつてのアベンジャーズ)の去就がどうなるかは”Only The FOX GOD knows.”だが,彼女たちの存在なくして”YUIMETALなき後のBABYMETAL”が存在しえなかったことは多くの人が認めるところだろう。サポート役に徹するその姿は,まさしくプロフェッショナルそものであった。

■衝撃のオープニング

オープニングは予想通り新曲“METAL KINGDOM”だった。荘厳な儀式のような演出は非常にシアトリカルで,あの「LEGEND-S」を凌ぐレベルだったと思う。“封印解除”の幕開けとしてこれほど相応しい曲/演出はないだろう。

魔術的な杖を手にしたローブ姿の人影が正面ステージ付近に姿を現し,フロア中央を縦断する花道の上を列をなして歩いてゆく。その先には,キツネ様の巨大な顔が彫られた大きな壁。先頭を歩む人影が手にした杖を掲げると,その杖から壁に向けて光が放たれ……しばらくすると,まるで神話上の天の岩戸を模したような壁面が割れ,そこから巨大で禍々しくもある玉座がせり出してきた。アーティスト写真などでもおなじみの,あのトゲトゲしい構造物だ。その玉座に座して歌い始めるSU-METALの姿は文字通りの女王,METAL KINGDOMの君主そのものであった。

SU-METALの右手には先が長く二股に裂けた長槍が握られており(まるでロンギヌスの槍だ),それが誇り高き戦士然とした空気を醸し出す。威厳と気高さと慈愛に満ちたそのパフォーマンスに私は圧倒されてしまい,シンガロングしようと思っても声が出ず,涙目になりながら半ば嗚咽するしかなかった。ちなみに,2日目に私の横にいた女性は,この曲が終わるとこぼれ落ちる涙をしきりに拭っていた。それほど胸に迫る説得力を持ったパフォーマンスだったのだ。

オープニングの演出から“METAL KINGDOM”までの部分はYouTubeで公開した方がいいと思う。間違いなく見る人全ての度肝を抜くインパクトがあるし,復活を遂げたBABYMETALがとんでもない次元に突入したことがよく分かるのだから,映像作品化されるまで隠しておくのはもったいない。公開すればとても良いプロモーションになると思うのだが。

■新曲

感動的な“METAL KINGODM”に続いて披露されたのは,3月に発売予定の新アルバムの曲順と同じく“Divine Attack - 神撃 -”だ。アグレッシブでドラマティックなこの曲は,実にライブ映えすると強く実感した。前向きな歌詞とステージ上で踊る3人の姿が相まって,とてもエモーショナルな空気が醸成された。そして何よりシンガロングが心地よい。声出し禁止のライブだったら,この曲の魅力は半減していたに違いない。結果として新アルバムの冒頭2曲をそのままライブのオープニングに持ってきたわけだが,この流れは大正解。破壊力抜群だ。

リリース済みの新曲は全て披露された。“Monochrome”はSU-METALと観客の掛け合いが最高だった。ついにスマホのライト点灯が正式に(?)演出に取り入れられたというのも画期的。SU-METALが唐突に「スマホのライトを点けて」と英語で呼びかけたのにはほとんどの観客が面食らっただろうが,ほどなくして多くの人がスマホを掲げ,会場内はまるであまたの星が煌めく宇宙空間のような状態に。その中でSU-METALは気持ちよさそうに自由にハミング。心温まる至福のひとときであった。

この演出により会場の一体感がグッと高まった。そして何より,一連のやり取りにSU-METALの人間味が感じられるのが良かった。ちなみにこの曲,ライブでは音がとんでもなく硬い。この鋼鉄感は完全に予想外だった。特に冒頭部分のバスドラ連打が驚異的で,まるで宇宙を揺るがす雷鳴のようだった。

また,未発表の新曲も2曲披露された。中盤で披露された“Light and Darkness”はSU-METALの歌声がフィーチャーされたJ-POP寄りの曲。なんの前触れもなく2回ライブで体験しただけなので評価が難しいが,正直に言うとややパンチに欠ける印象だ。サビはキャッチーで良いのだが,その他のパートが地味すぎる。もちろん,今後聴き込むことでその評価は変わるだろうが……。

ライブの最後に披露された“THE LEGEND”は“THE ONE”を受け継ぐテイストの曲。おそらく今後のライブでエンディングを飾ることが多くなるだろう。最後の「We are THE LEGEND」というフレーズをSU-METALは珍しくファルセットで歌っていた。全体的な印象としては"THE ONE”ほどのドラマ性はない気がするが,振り付けは必見だ。向かい合わせになったSU-METALとMOAMETALが,まるで合わせ鏡のように対称性のある振り付けで踊るのだ。とても神秘的な光景だった。

結果として3月発売予定のコンセプト・アルバム「THE OTHER ONE」からは収録曲全10曲のうち半数の5曲が披露された。5曲が多いか少ないかというのは人により異なるだろうが,私はといえば「ちょっと多すぎ」というのが正直な気持ちである。収録曲の半分を事前にライブで披露してしまったらアルバムの価値が下がってしまいかねないし,そもそもアルバムを手に入れるという楽しみが半減してしまうと思うからだ。

その一方で,ライブのセット・リスト全13曲中5曲を新曲にしたという決断には敬意を評したい。オーディエンスの反応も分からず,演者としてもリスクが高いはずの新曲を5曲も組み込んだら,下手をしたらライブそのものが崩壊しかねない。相当な勇気と覚悟がないとここまで攻めた構成にはできないだろう。挑戦者魂を忘れないBABYMETALらしい決断だと思う。

■史上最大の「なんじゃこりゃ」

今回のライブで最大の「なんじゃこりゃ」は間違いなく"ド・キ・ド・キ☆モーニング”だろう。おそらくBABYMETAL史上最大の「なんじゃこりゃ」だったはず。「もう一つのBABYMETAL」が姿を現した時には,いったい目の前で何が起きているのかさっぱり分からず,頭の中は大混乱だった。

向かい合う2つのステージ。その上でフォーメーションを形成する2組のBABYMETAL。初期の頃を彷彿とさせる赤と黒を基調にしたコスチュームに身を包んだ3人の方は最初はホログラムかと思ったが,実はそうではなくて”リアル”だった。まるで10年前の(あるいはデビュー当時の)自分たちと共演するかのような演出に,ただただ唖然,呆然。曲が終わった直後の観客のざわつきが凄かった。

2日目には”彼女たち”の表情がカメラに抜かれて会場内のスクリーンに映し出されることが多かったが,彼女たちの素性は私には一切分からなかった。Twitter上ではBABYMETALと同じ事務所に所属する後輩たちだという説が流布しているが,おそらくそうなのであろう。SU-METAL役を務めた子の凛とした表情が強く印象に残った。

■トラブル

“ギミチョコ!!”では珍しくSU-METALに音響トラブルが発生した模様(1日目)。歌唱のテンポがずれてしまったのだ。しかしSU-METALはMOAMETALの振り付けを見て軌道修正し,ズレは程なくして修復された。Twitterで見かけた分析によれば,場内後方のディレイ・スピーカーの音が大きかったため,その近くで歌っていたSU-METALはイヤモニの音をうまく拾えなくなって混乱したのではないかとのこと(なるほど)。真相は定かではないが,瞬時に軌道修正したのはさすがだと思う。

“ギミチョコ!!”にかぎらず,1日目はSU-METALの声がいつになく乱れがちだった印象を受けた(先走ったり遅れたり)。ライブは2年ぶりなのだから,演者にしろスタッフにしろいろいろと調整が大変だったであろうことは想像に難くない。1日目をやり切ったことで諸々修正が図れたようで,2日目には技術的なトラブルはほとんどなかったと思う。さすがである。

■3人目問題

2日目最後の演出は衝撃的だった。SU-METALとMOAMETALがステージ後方の高所に設置された棺桶に入って姿を消したあと,もう一つの棺桶がせり上がり,その前にスッと立つ1人のシルエットが。これはどう見ても3人目の正式メンバーが決まるというお告げである。4月のぴあアリーナMM公演はそのお披露目になりそうだ。はたして3人目は誰なのか。今までのサポート・メンバーから選ぶというのはあまりに分かりやすすぎるし,意外性がなくてBABYMETALらしくない。おそらく相当なサプライズになるのではないか。個人的にはYUIMETALの復活を望む。

ーーーーーーーーーー

BABYMETALはこの日,METAL KINGDOMの建国を高らかに宣言した。玉座に座するのは,もちろん女王SU-METALだ。その右側にはMOAMETALが控えている。そして左側には,おそらく4月の横浜公演で明らかになるであろう”正式な3人目”のメンバーが控えることになるのだろう。生まれ変わったBABYMETALの真の姿を目撃する日を心待ちにしたい。

■おまけ・ドローン

ステージ周辺には常に小型ドローンが飛行してステージを撮影していた。1日目にはほんの一瞬,そのカメラが捉えたであろう映像が会場内のスクリーンに映し出される瞬間があったが,それはあくまでも例外。おそらく今後,何らかの映像作品に生かされるのだろう。

■おまけ・”Kingslayer”

開演前の17時50分頃,場内BGMでBring Me The Horizonの“Kingslayer”が流れてビックリ。SU-METALのパートになると場内からは拍手が沸き起こった。開演直前にあえてのこの曲。その選曲には会場を盛り上げる意図が込められていたことは明白だ。2日目もほぼ同時刻にこの曲が流れ,会場内は前日以上に盛り上がった。

■おまけ・物販(1日目)

10時59分,一般の物販待機列に到着。すでにかなりの長蛇の列。海浜幕張特有の強い寒風が吹きすさび,かなりの寒さだった。日向ならば多少ましだが,日陰だとかなりの寒さ。時間が経つにつれて手袋をはめた手の指先も冷たくなってきた。


12時35分,チケットの確認を経てようやく販売エリアに入場。ここにも相当な人数が溜まっていたが,常に少しずつ前進できたので精神的にはちょっとだけ楽だった。ほどなくしてこの日初めての売り切れアナウンスが(Tシャツ3番のXXLサイズ)。今回の私のお目当てはパーカー(Lサイズ)なのだが,はたして無事に買えるだろうかと早くも不安が脳裏をよぎる。

その後,徐々に売り切れ商品が出始めて,13時30分頃にはラバーバンド2種とモバイルバッテリーが完売。Tシャツ3番も全サイズ売り切れた。

そして13時50分,無惨にもパーカーLサイズ売り切れのアナウンスが。衝撃に膝から崩れ落ちそうになったものの,気を取り直してTシャツ1番ととトートバッグを購入(時刻は14時2分)。この日の物販は3時間並んで見事に破れて散った。

今回は珍しく早いタイミングで売り切れが続出した印象だ。原材料費の高騰その他の理由で在庫を少なめにしたのか,それとも久しぶりのライブでファンの購入欲が高まったのか,それともその両方が原因なのかは分からない。いずれにしても,2014年~15年頃の過酷なグッズ争奪戦を思い出させる売れ行きだった。


【セット・リスト】
2023年1月28日(土)・29日(日)
幕張メッセ国際展示場2〜3
01 METAL KINGDOM
02 Divine Attack - 神撃 -
03 Distortion
04 PA PA YA!!
05 ギミチョコ!!
06 メギツネ
07 ド・キ・ド・キ☆モーニング
08 Light and Darkness(未発表)
09 Monochrome
10 ヘドバンギャー!!
11 イジメ、ダメ、ゼッタイ
12 Road of Resistance
13 THE LEGEND(未発表)

コメント

このブログの人気の投稿

ライブ参戦レポ/「NEX_FEST」に降臨!フェス仕様のBABYMETALは超攻撃的だった

ライブ参戦レポ/「NEX_FEST」で“Kingslayer”完全版をついに目撃

レビュー/「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」度肝を抜く凝りに凝った演出にBABYMETALの本気を見た