考察:BABYMETALとは何か(3)

問い:BABYMETALとは何か


答え:
①BABYMETALとは現象である。
②BABYMETALとは絶対に無視できない存在である。
③BABYMETALとは物語である。

最終回となる(3)では,「BABYMETALとは物語である」という答えについて考察する。

○「封印」以前の物語性

BABYMETALには様々な物語が内包されている。そのパフォーマンスや活動にどのような物語性を見出すかは,見る側の体験や嗜好に大きく左右されるだろう。しかし誰もが共感する最大の物語は,こんな感じなのではないだろうか。

「ヘヴィ・メタルとは無縁だった10代の3人の少女たちが,半ば無理やり仕事としてメタルっぽいことをやらされた。しかしそれを続けていくうちに彼女たちはメタルを理解し,メタルを愛するようになり,メタルによって自分たちを表現することが大好きになった。そして今や唯一無二の個性を発揮するようなり,世界の共通言語としてのメタルによって世界中のメタル・ファンを虜にするまでになった――」

要するに「親がもともとメタル好きで,小さな頃から自然とメタルに接していた」という類のエピソードのエクストリーム版(あるいは特殊事例)である。もっとも,「仕事でメタルを演るようになって,メタルのフェスにたくさん出ていたらメタルを好きになっていた」というわけで,メタルを“聴く側”ではなくて“演る側”というのが極めて異例ではあるが……。

いずれにしても,アウェイな状況を真正面から受け止めてバッサバッサと切り返し,「やらされていたBABYMETAL」を己の血肉と化し,やがては「BABYMETALとしての自我・自覚・責任」を背負って立つまでに成長するという物語は,メタル視点から見てもアイドル視点から見ても非常にエモいことは間違いない。しかもこの物語にはシナリオがあらかじめ用意されていたわけではなく,自然の成り行きとしてそうなったのだから,なおいっそう人を魅了してやまない。このような誰もが予想だにしなかった成長過程=“SU-METALとMOAMETALの意識の変容”こそ,BABYMETALが有している最も魅力的な物語なのだと思う。

そのようにして今や自らの足でメタルのフィールドにしっかりと立つようになったSU-METALとMOAMETALだが,メタルに対する向き合い方には違いがある点が興味深い。

SU-METALのメタル愛の原点は音楽体験にある。2013年に大阪で開かれた「サマーソニック」でMETALLICAのパフォーマンスに激しく心を揺さぶられたというエピソードは有名である(NHK「BABYMETAL革命」,2016年)。「音楽は耳で聴くものっていう常識が覆された」(『Young Guitar』2016年5月号)とまで言っており,SU-METALの発言からは彼女がヘヴィ・メタルという音楽の魅力にどんどんハマっていく様子が強くうかがえる。

MOAMETALもMETALLICAのライブを観て「心に地震が起きた」「よりメタルが好きになった」(TBS「めざましテレビ」,2016年)と発言しているが,SU-METALのようにメタルを追求して表現することが目的ではなく,メタルによって世界中の人たちを笑顔にすることが目的である点が少し違っている。世界に愛と笑顔を届けるための手段が,大好きなメタルという音楽なのだ。

受動から能動への転換。「わたし」がBABYMETALをやることの意味,自分たちがBABYMETALであることの意義とメタルであることの理由――そのようなことを自我の芽生えとともに自問自答し始め,その答えを自分なりに見出そうとする物語。メタルとは縁も所縁もなかった少女たちが,メタルを己のアイデンティティとして取り込み,消化して表現するようになるという成長物語。BABYMETALというのは,最初は何者でもなかった少女がたちが,新たなメタルの体現者になるまでのストーリーなのだ。


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