ライブ参戦レポ/ついにファイナル!「10 BABYMETAL BUDOKAN - DOOMSDAY - X -」は目をみはるような光のアートだった

ついにこの日がやって来た。BABYMETALによる空前にして絶後の挑戦,日本武道館10公演の最終日。「10 BABYMETAL BUDOKAN - DOOMSDAY - X」には妻METALを伴って参戦した。実はこの日の公演は,私にとって記念すべき(?)30回目のBABYMETALのライブなのだった。ちなみに記念すべき1回目は奇しくも2014年3月1日の日本武道館公演。武道館はたしかに聖地なのかもしれない。

◆総論

結論から言うと,この日のライブは席が良かったというひと言に尽きる。そう言うと身も蓋もないが,事実は事実。1階席4列目はステージがとても近く,3人の表情も分かるほど。さらに高さがステージとほぼ同じなので臨場感と没入感も強烈。自分もステージに立っているかのような錯覚に陥ることもしばしばだった。

ちなみにステージの近さには妻METALも感激したようで,この日が4回目のBABYMETAL体験となる妻にとっては今回のライブが一番楽しかったそうだ。その理由はステージの近さだという。ライブが始まった直後,「目の前にいる!」と感激して半泣きだったらしい。過去3回のライブはステージまでの距離があったためモニターを見ていることがほとんどだったが,この日はモニターを見ることは一切なくて,ずっとステージ上の3人を直視していたとのこと。可愛い女の子が好きな妻にとっては,この近さはとてもありがたかったのだろう。実は妻METALは特にBABYMETALのファンというわけではないくて,今までのライブには「夫が楽しんでいるからついて行く」という軽いノリで来ているのだが,そんなライトな人にも「感激した」と言わしめるほどステージとの距離感は大切なのだ。

少し話がそれてしまったが,臨場感と没入感に拍車をかけたのが照明の素晴らしさだということも指摘しておきたい。2月に2階席後方からステージ全体を視界内に収めて楽しんだ時も照明の素晴らしさを強く感じたが,照明の中に半ば取り込まれて今日感じた強烈な体験は、1階前方ならではだと思う。時には自分が光あふれる空間の中を宙に浮いているような錯覚に陥ったり,自分がどこにいるのか一瞬わからなくなったりという感覚に襲われることが何度かあった。今回の武道館公演は「光のアート」だったと言っても過言ではない。それほど照明が素晴らしかった。

もちろん素晴らしかったのは照明だけではない。何か一つがずば抜けて凄いのではなくて,すべてが一級品。SU-METALの歌声がどうだったとか,MOAMETALがこんなアクションをしていたなどということは,もはや良い意味でどうでもいい。SU-METALとMOAMETALのパフォーマンスが素晴らしいのは当然で,神バンド,照明,音響,ステージ・セットなどを含めたトータル・パッケージで評価すべき一大メタル・エンターテインメントだとの思いを新たにした。

最先端のメタル的総合芸術とさえ言える今回の武道館10公演の模様は6月末に映像配信されるそうだが,はたしてこの衝撃的な「光のアート」が映像作品としてどのように表現されるのかが気になるところ。臨場感や没入感という点では「リアル」にかなわないことはわかっているので,別の角度からその素晴らしさを表現しないと意味がない。制作に携わる者のスキルとセンスの見せ所だと思う。

唯一残念だった(あるいは不運だった)のはセット・リスト。私が参戦した「DOOMSDAY -VI」と「DOOMSDAY-X」は基本的なセット・リストは同じで,違ったのはSU-METALとMOAMETALのソロ曲だけだったのだ("おねだり大作戦”→"GJ!”,"紅月-アカツキ-”→"NORAIN, NORAINBOW”)。できれば"BxMxC”や"From Dusk Till Dawn”も聴きたかったというのが正直な気持ち。とはいえ13曲中12曲が同じセット・リストでもまったく違う体験をすることができたのだから,そこまで言うのは欲張りというものだろう。

さて,4ヶ月に渡って日本武道館で10回の公演を行うという快挙を成し遂げた今,BABYMETALの次なる行動はどうなるのだろう。これほどまでにインパクトが大きいライブを終えた後なので,時間をおいて再びライブというのはあまり考えられない気がする。メタルレジスタンスが終わって次なるステージへを踏み出すわけだから,いったんリセットして新たなテーマなり設定なりを具体的に提示してからでないと,膨らむばかりのファンの期待に答えられるだけのライブを実現することは難しいのではないか。おまけに新型コロナウィルスの問題もある。国内でのライブ実現には一定の目処が立ったと思うが,海外ツアーとなると,ことはそう簡単ではない。そのあたりの状況を見極めるためにもしばし休息を取り,その後に新アルバムの製作とリリースというのが現実的な路線なのではないか。

いずれにしても,キツネ様のみぞ知る次なる一手を心待ちにしながら,まずは6月の「10 BABYMETAL BUDOKAN WORLD PREMIER」配信を楽しみに待ちたい。


◆会場到着&入場

指定された整列開始時刻は16時50分。ほぼ時刻通りに列に並んだ。入場開始は17時の予定だったが,多くの人が集合し始めていたため早めに入場開始。しかし人が滞留してしまったようで一時的に入場はストップ。17時10分頃になって再開した。チケットの確認とボディチェックを経てSavior Maskを受け取り,さっそく着用して館内へ。

今回の座席は北東1階D列。2月の「DOOMSDAY -VI」では南西の2階席だったので,その時とは真逆である。これはラッキーだと思っていたが,実際に着席してさらにびっくり。D列はつまり4列目ということで,これはほぼ最前と言えるベストポジション。ステージは目の前にあると言っていい。しかも高さがステージとほぼ同じなので一体感も感じられる。おまけにドラムが目の前に鎮座しているではないか。2月は素晴らしいステージと演出の全体を俯瞰して楽しむことができたが,今回はその時とは違う感動を得られそうだと期待したが,まさにそのとおりの結果になったことは上述の通り。

◆曲ごとの感想

01. BABYMETAL DEATH(改)

2月の時よりも凶悪で激しさが増していた印象。音が硬かった。気のせいかもしれないし,2月と今回とでは座席の位置が違っていたからかもしれない。でも新曲なので調整が施された可能性は否定できないと思う。とても邪悪でクールな曲なので,次のアルバムではぜひともオープニングを飾ってほしい。

02. イジメ、ダメ、ゼッタイ

2月の「DOOMSDAY - VI」でも感じたが,この曲が実質的なオープニング曲として披露されるとライブの「最初からアクセル全開」感がハンパない。のっけからのクライマックス状態についていくのに必死。それにしてもステージが近くで驚いた。ステージ上で歌い踊る3人の姿はもちろん,その表情まで見て取ることができるのだ。ふと気づくと隣りにいた妻METALがステージを一新に見つめながら,両手を胸の前で祈るように組んでいた。後で聴いたところでは,3人の姿が近くて感激していたとのこと。

03. ギミチョコ!!

BABYMETALの代名詞と言える名曲IDZの次が,BABYMETALを世界に知らしめることになった歴史的な曲というあまりに贅沢な流れ。この展開は2月の「DOOMSDAY - VI」と同じだが,何度体験しても圧倒される。

04. ド・キ・ド・キ☆モーニング

重厚で重心が低いグルーヴ感が最高に心地よかった。途中ですべての音が一瞬途切れるという珍しいハプニングが発生。SU-METALはもちろん神バンドの面々も誰一人として動揺した素振りも見せず,何事もなかったかのようにパフォーマンスを続けていたのはさすが。プロだがから当然といえば当然なんだろうけど。それにしても女子中学生や女子高生の日常を描いたこの曲を,今年24歳にならんとするSU-METALがキュートに歌ってしまうことの素晴らしさよ。「女は女優よ」とはよく言ったもので,SU-METALのなりきりっぷりには感服するしかない。

05. GJ!

三三七拍子の煽りとともにMOAMETALが小狐さん4人を引き連れて登場。楽曲の性格上,2月の”おねだり大作戦”では煽り要素はなかったが,今回はMOAMETALが観客を煽りまくり。アイドル然とした話し方がとてもキュートだった。小狐さんたちのダンスもクオリティが高く,フォーメーションも美しかった。

06. NO RAIN, NO RAINBOW

曲の後半でステージ上にマットブラック仕様のグランドピアノが登場し,SU-METALが演奏しながら歌うという演出をついに目撃。ただでさえ情緒的で感動的な曲なので,そこに視覚的にエモーショナルな演出が加えられたことでこの曲の物語性がいっそう高まったと思う。SU-METALがピアノに視線を送りながら歩いたり,ピアノをそっとなでたりといった演技も同様の効果をもたらした。個人的に気になるのは,SU-METALがはたして本当にピアノを弾いていたのかということ。北東からだとピアノを弾くSU-METALを正面から見ることになり,手元がまったく視界に入らないのだ。失礼ながらSU-METALはあまり器用なタイプではないようなので,おそらく弾くふりをしているだけなのではないかと思うのだが,実際はどうなのだろう。

07. Distortion

美しいバラードNRNRから激しいメタルへと曲調が180度変わったが,実は「破壊と再生」がモチーフになっているという点でNRNRとこの曲は似ているとも言える。それ故この流れに違和感はまったく感じなかった。所々でSU-METALの歌声が不安定に感じられたが,本人のパフォーマンスではなくておそらく音響の問題だろう。

08. PA PA YA!!

吹き上がる炎がビジュアル的に迫力満点だったのは言うに及ばず,ステージが近かったこともあってその物理的な熱を強く体感できたことが良かった。これぞライブの醍醐味。妻METALもその臨場感を楽しんでいた(初めてのタオル芸には苦心していたけど)。間近で見て驚いたのはMOAMETALのダンス。一挙手一投足がとてもダイナミックで,「あんなに足を高く上げるのか!」「あんなに身体をひねるんだ!」などと驚きの連続。映像で見るよりもその迫力とダイナミズムを肌で感じることができた。小さい身体が大きく見える理由がよく分かった。

09. メギツネ

SU-METALにとっての課題曲だが,2月の「DOOMSDAY -VI」の時よりも安定感があるように感じた。恒例となったMOAMETALとの掛け合いでは「変顔対決」とはならず,MOAMETALが何事かを長々と語りかけていた模様。よほど面白かったのか,そのあとSU-METALはいつもよりちょっと長く笑っており,観客を煽る前に若干呼吸を整えて気持ちを切りかるような素振りを見せたように思う。

10. KARATE

ステージの外周から上方の中心に向かって綺麗に伸びるライティングの演出で,ステージがまるで格闘技のリング(ケージ)のように見えた。己との戦いがテーマであるこの曲にピッタリの視覚的効果。サウンドもパワフルで,この日披露された13曲の中で最も重量感があり最も音圧が強かったのは,おそらくこの曲だったと思う。毎度のことながらライブでは音が重たく,かつラウドになるのだ。SU-METALの「は~し~れ~♪」のロング・トーンが心地よかった。ちなみにSU-METALは「Everybody jump!!」と煽りを入れた。まさかの展開。

11. ヘドバンギャー!!

冒頭では天井から吊り下げられたモニターに過去のライブ映像が映し出されたが,そこにはコロナ禍の今では信じられないレベルの密集状態で繰り広げられる観客たちの土下座ヘドバンの模様が。場内に響き渡るオルガンの音色と相まって,邪悪な密教の儀式のような雰囲気が強烈に高まった。BABYMETALには様々な「顔」があるが,この宗教的なテイストは初期の頃から持ち合わせている魅力のひとつ。シアトリカルなステージには欠かせない要素だ。

ところで歌い出しの部分でSU-METALがハンドマイクにステッキ上のアイテム(名称知らず)を取り付けるのに若干もたついたようで,振り付けがちょっと詰まったように感じたのは気のせいか?

12. THE ONE

BABYMETALコールを挟んで披露されたアンコール1曲目。途中で3人がバラけてステージ外周に立って客席と相対する形になったが,何とMOAMETALは北東の位置にやって来たではないか。美しき女神の姿をほぼ正面から観るというまたとない幸運に恵まれた。慈愛に満ちたその笑顔の眩しさは筆舌に尽くしがたかった。

13. Road of Resistance

日本武道館10公演を締めくくる大トリ。2015年1月の「新春キツネ祭り」で初めて世に出たSU-METALの「かかってこいや!」は,今日この日が最も力強くて最も感情がこもっていたように思う。まさに入魂の「かかってこいや!」。その時北東側スタンドからはSU-METALの背中しか見えず,その表情をうかがうことはできなかったが,おそらくかつてないレベルのドヤ顔だったのではないかと推測する。

MOAMETALが拳を突き上げながら膝をついてのけぞる最後のシーンでは,SU-METALがおそらく今までで最も長い「レージースターーーーーーーーーーーーンス!」を披露。あの細い身体のどこにこれだけの空気を溜め込んでいたのかと驚くレベルのロングトーンで,その肺活量の凄まじさに心の中で唖然としてしまった。

曲が終わる「We are BABYMETAL」のコール&レスポンスをしながら3人がステージの外周を移動。等間隔に配置された9つの銅鑼をSU-METALが順番に打ち鳴らしていくという演出だ。いちいちカッコつけて銅鑼を叩くSU-METALの姿がなんだか微笑ましかった。MOAMETALもサポートを務めた岡崎百々子さんも客席のあちこちに視線を投げかけて満面の笑みを浮かべながら手を降ったり,飛び跳ねたりしていた。2月の時にも感じたが,こんなに自由に振る舞って観客とコミュニケーションをとる姿を見たのは初めてだ。そんな心温まる触れ合いのひとときが終わると,ステージ内の端に10個目となる大きな銅鑼がせり上がって登場。一段低くなったその場所にSU-METALは軽やかに飛び降りると,手にした巨大なバチをひと振り。観客の度肝を抜くとんでもない音の大きさのパイロが炸裂して,10年に渡るメタルレジスタンスは幕を閉じたのだった。

◆終演

終演後には今後のBABYMETALの活動について新しいお告げが下されるのではないかと期待していたのだが,紙芝居は「LIVING LEGEND云々」という既発の内容で新要素は皆無。ようするにこれからのことは「Only The Fox God knows.」ということだった。

最後に目の前で文字通り鬼神の如きプレイを存分に見せてくれたドラムの神についても触れておきたい。普段はほとんど見ることのできない演奏中の姿を,生のライブの現場で最初から最後までずっと見ることができたのは望外の幸せだった。あれほどパワフルなドラミングなのに,ドラムを叩くその姿はまるで千手観音が華麗に演舞しているかのような軽やかで,とても優美たった。これは意外な発見だった。


【セット・リスト】

10 BABYMETAL BUDOKAN - DOOMSDAY - X
2021年4月15日(金)
日本武道館
01. BABYMETAL DEATH(改)
02. イジメ、ダメ、ゼッタイ
03. ギミチョコ!!
04. ド・キ・ド・キ☆モーニング
05. GJ!
06. NO RAIN, NO RAINBOW
07. Distortion
08. PA PA YA!!
09. メギツネ
10. KARATE
11. ヘドバンギャー!!
12. THE ONE
13. Road of Resistance

コメント

このブログの人気の投稿

リリック・ビデオが衝撃的なBABYMETALの新曲“Monochrome”は何を表現しているのか

考察|BABYMETALの3人目問題/なぜ鞘師里保と藤平華乃の名は明かされたのか

レビュー/BABYMETALの映像作品「LEGEND - MM」は見どころ満載