レビュー/「METAL FORTH」-メタルの成熟度が増したBABYMEALの新アルバム

METAL FORTH / BABYMETAL
2025年8月8日発売(THE ONE Limited Edition)


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 BABYMETALが通算5作目となるスタジオ・アルバム「METAL FORTH」をリリースした。5作目ではあるが,2023年発売のコンセプト・アルバム「THE OTHER ONE」は外伝的な位置づけであり,「METAL FORTH」は“4作目”にあたるというのがアーティスト側の見解だ。

◯積極的なコラボの裏で堅持されたBABYMETALらしさ

全10曲,トータル約35分という(まるでSLAYERのような)今時珍しい超コンパクトな本作は,他のアーティストとのコラボ曲が7曲にも及ぶという異色作である。各種媒体のインタビュー記事を読むかぎり,意図してそのような作りになったのではなく,あくまでも自然な流れでそうなったということのようだ。

“コラボ率”が70%もあると聞き,はたしてアルバムとしての統一感は維持されるのだろうか,BABYMETALらしさが薄まってしまうのではないか,という一抹の不安が脳裏をよぎったのは事実である。先行して発表された楽曲を聞いた(ライブやYouTubeで観た)かぎり「らしさ」は維持されてはいたものの,アルバムを最初から最後まで通して聴いたときに,全体としてどのような印象になるのだろうということがとても気になっていた。

結論から言えば,それは杞憂にすぎなかった。ほぼコラボレーション・アルバムと言っていい作風ながら,「METAL FORTH」はBABYMETAL印が強烈に刻まれた作品であり,BABYMETAL色が薄まっているなどということは一切ない。これは良い意味で意外だった。

うがった見方をするならば,既発曲に似た曲(その系統に属することが一目瞭然の曲)が数曲あるのは事実であり,その意味では若干の「焼き直し」感を抱かないでもない。しかし,“コラボ率70%”でありながら,「これぞBABYMETAL」としか言いようのない仕上がりになっているという奇跡のバランスを目の当たりにすれば,そのような「焼き直し」感など些細なことだと思えてくる。

また,全10曲中6曲がすでにライブで披露済みだったので,アルバムの鮮度が落ちるのではないかという懸念もあったが,それも問題にならなかった。たしかにライブでは散発的に新曲が披露されたものの,それはあくまでも既存曲中心のセット・リストに新曲が数曲組み込まれるだけのこと。それと新アルバムを丸ごと聴くのとでは,聞き手が受ける印象はまるで異なる。ライブで何度か聴いた新曲たちが,このアルバムにこの順番で収まっていること自体が,そもそも新鮮なのである。

THE ONE Limited EditionはSpecial Box仕様

◯「THE OTHER ONE」の影響

様々な憶測や懸念,そして期待を一身に背負ってリリースされた「METAL FORTH」であるが,まず1回アルバムを通しで聴いて抱いた印象をひと言で表すと,それは「成熟」ということである。

1stアルバム「BABYMETAL」から3rdアルバム「METAL GALAXY」によってメタルの世界を水平方向に広く切り開き,メタルの多様性を極限まで広げたBABYMETALは,本作「METAL FORTH」によって今度はメタルの世界を垂直方向に深く掘り下げていき,自身が体現するヘヴィ・メタルの成熟度を一層深めることに成功していると思う。

その「成熟」に大きく影響を与えているのが,前作「THE OTHER ONE」の存在である。

様々な神話の世界をモチーフにしたコンセプト・アルバムである「THE OTHER ONE」は,それ以前の3枚のアルバムとは表現する世界観が明らかに異なっていた。ダークでミステリアスなテイストが強い楽曲群は,その独特の世界観を表現するためかサウンドも超重量級なものばかり。アルバム全体からは(精神年齢が高いという意味で)「大人」「アダルト」と言っていい雰囲気が強く感じられた。

THE OTHER ONE」が有するそのような独特のタッチが,「METAL FORTH」の随所に感じられる。このアルバムの楽曲がどれもしっかりと作り込まれており,とても洗練されていて成熟しているという印象を与えるのは,「THE OTHER ONE」というアルバムがあったからこそだと思う。

おそらく「METAL GALAXY」の直後に「METAL FORTH」は生み出されなかったのではないか。その間に「THE OTHER ONE」という“もう一つのBABYMETAL”の物語を挟んだからこそ,「METAL FORTH」でBABYMETALが体現するヘヴィ・メタルはより成熟したのではないか。そのような気がしてならない。

◯唯一の課題

METAL FORTH」は非の打ち所のない素晴らしいアルバムだが,強いて弱点を挙げるなら楽曲によって音のバランスにばらつきがあり,音像が異なることだろうか。

ヴォーカルがやや引っ込んだ曲もあれば,反対に全面にグッと出てくる曲もある。全体的に音圧が高い曲もあれば,そうでない曲もある。曲のテイストが異なるのは自然なことだが,音のメリハリや音圧に統一感が感じられない点は個人的に不満である。

レコーディングはツアーと並行して行われたようだから,そのようなばらつきはもしかしたらレコーディング環境に起因することなのかもしれない。本作のクレジットには「Mastering Engineer: Ted Jensen」とある。マスタリングの世界的名手がそのことに気づかないはずがないから,これは意図的なものなのだということにしておこう(マスタリング時には修正できず,ミキシング時にしか修正できないことなのかもしれない。素人なのでよくわからいが)。

巨大な歌詞カード(ポスターの裏面)

◯収録曲それぞれの感想

01 from me to u (feat.Poppy)
楽曲リリース時のレビューはこちら → レビュー/BABYMETALの新曲“from me to u (feat. Poppy)”は“Distortion”の進化版?

02 RATATATA (BABYMETAL x Electric Callboy)
楽曲リリース時のレビューはこちら →  レビュー/BABYMETAL x ELECTRIC CALLBOYによる“RATATATA”は“いいね!”の究極進化形

03 Song 3 (BABYMETAL x Slaughter to Prevail)
楽曲リリース時のレビューはこちら → レビュー/新曲“Song 3”は真面目にふざけるBABYMETALの真骨頂

04 Kon! Kon! (feat. Bloodywood)
楽曲リリース時のレビューはこちら → レビュー/BABYMETALの新曲第3弾“Kon! Kon!”は初期Sepulturaのようなトライバル・メタル!

05 KxAxWxAxIxI

3rdアルバム「METAL GALAXY」に収録されていた“BxMxC”の路線を引き継ぐラップ・メタル。ただし,典型的な(わかりやすい)ラップらしさは“BxMxC”よりも抑えめな印象だ。

とにもかくにも「わたしKAWAII わたしKAWAII わたしKAWAII やっぱKAWAIIでしょ?」というフレーズに象徴される歌詞のインパクトが絶大。“BxMxC”はラップ・メタルというスタイルもさることながら,ライブにおけるその超重量級のサウンドとパフォーマンスのかっこよさが魅力だ。ルーズでスローな“KxAxWxAxIxI”がはたしてライブでどのように化けるのか。要注目である。

06 Sunset Kiss (feat. Polyphia)
METAL GALAXY」収録の“Brand New Day”でコラボしたPolyphiaと再びタッグを組んでいる。曲調もそれを引き継いでおり,おしゃれで洗練されたシティ・ポップ・メタルだ。SU-METALのヴォーカリストとしての魅力が存分に発揮されている。ティモシー・ヘンソンとスコット・ルペイジの流麗な超絶ギターはさすがのひと言。

07 My Queen (feat. Spiritbox)

アルバム発売と同時にMVも公開された。全体的にダークでヘヴィな曲調だが,サビはキャッチーでエモい(J-POPあるいはジャパメタっぽさも感じられる)。力強く緩やかに,それでいてどこか切なげに歌い上げられるメロディーはBABYMETALの楽曲としては珍しいのではないだろうか。……と言いつつ,実はそれ以上にレアなのは,サビ前のパート。静かに語りかけるように言葉を紡ぐ(しかも低音で)SU-METAL。これはもう新境地である。

08 Algorism
2ndアルバム「METAL RESISTANCE」収録の“シンコペーション”を踏襲した,いわゆるジャパメタ的な曲。ちょっとだけ登場するMOMOMETALのデス・ヴォイスが良いアクセントになっている。

09 メタり!! (feat. Tom Morello)
楽曲リリース時のレビューはこちら → レビュー/BABYMETALの新曲“メタり!!”は究極の鋼鉄お祭りソング 

10 White Flame - 白炎 -
アルバムのフィナーレを飾るにふさわしい感涙もののメロディック・スピード・メタル。“メタり!!”までの9曲はこの曲へと続く前奏だったのではないかと感じてしまうくらいの壮大なカタルシスが強烈だ。

曲調と曲名は“紅月 - アカツキ -”(「BABYMETAL」収録)と“Amore - 蒼星 -”(「METAL RESISTANCE」収録)の流れを汲むが,そこに“Arkadia”(「METAL GALAXY」収録)が有する神々しさと宇宙規模的スケール感が加わり,ドラマ性がいっそう高まっていると思う。後半部分に組み込まれたシンガロング・パートも素晴らしく,ライブでは間違いなく大合唱が発生するだろう。

THE ONE Limited Edition付属の写真集(64P)


【収録曲】
01 from me to u (feat.Poppy)
02 RATATATA (BABYMETAL x Electric Callboy)
03 Song 3 (BABYMETAL x Slaughter to Prevail)
04 Kon! Kon! (feat. Bloodywood)
05 KxAxWxAxIxI
06 Sunset Kiss (feat. Polyohia)
07 Muy Queen (feat. Spiritbox)
08 Algorism
09 メタり!! (feat. Tom Morello)
10 White Flame - 白炎 -


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参考:レビュー/BABYMETAL「THE OTHER ONE」-メタルの未来を先取りした“超未来的”ヘヴィ・メタル・アルバム 

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